アルバム「Johnny Boy」はたいへんな傑作でございます

先日ブックオフで「ミーン・ストリート」のDVDが750円で売られてるのを発見しまして。ずっと観たい映画だったので、未見だけど買っちゃいました。そんで昨日観たんだけど、まあ今日はその感想を書くわけではなく。なぜスコセッシのファンでも、デ・ニーロのファンでもない私が、この映画をずっと観たがっていたのかっていう話で。(「ミーン・ストリート」はスコセッシ×デ・ニーロの1作目)

なんとなく察しがつく人もいると思うんだけど、私が「ミーン・ストリート」をずっと観たがっていたのは、イギリス出身の男女デュオ(っていうとなんかダサいけれど)Johnny Boyがきっかけであります。Johnny Boyという名はこの映画でデ・ニーロが演じた役名からとっていて、彼らの楽曲にもこの映画からのインスピレーションがいろいろ窺えます。

例えば、その名もJohnny Boy Themeという曲があります。

最初の「教会で罪は償えない、私達は通りや家で罪を償う。それ以外はまやかしである」という言葉は、そのまんま映画の冒頭からの引用。歌詞の中にネタバレがありますね。フィル・スペクターがプロデュースしたかのような多幸感溢れる音の洪水が美しい。甘いメロディと心躍らせるようなドラムも魅力です。

そして彼らの代表曲、You Are The Generation That Bought More Shoes And You Get What You Deserve(長い!!)にも、映画の影響が。

この最初のドラムは、映画のオープニングで流れる(前述した引用句の後ね)ロネッツの名曲、Be My Babyの最初のドラムを模したもの。そしてこの曲のプロデューサーを務めたのが、フィル・スペクターなのであります。

こちらがBe My Baby。この美しいウォール・オブ・サウンドはJohnny Boyの音楽にも確実に影響を与えているでしょう。

You Are~の話に戻りますが、これはサウンドやメロディも完璧だけれども、なんといっても歌詞が素晴らしい。タイトルからして、「あんた達はずっとたくさん靴を買う世代、ふさわしいものを手に入れるんだよ」であります。必要のないものを必要だと思わせ、人々に大量消費を促す資本主義社会への告発。それがこの曲で歌われることです。なんともパンクな姿勢。この曲はシングルリリースされ、なかなかのヒットを記録したんだけど、そのシングルの裏スリーブには、ジョン・ライドンの「俺達は、俺達を太らせようとするすべての連中を、不快な気分にさせようとしているんだ」という言葉が載せられています。狙いはかなりはっきりしているよね。資本主義の恩恵を享受し、世界のあらゆる不公平や貧困を生み出すのに加担している、私達への警告。

しかし彼らはこの現状を嘆き告発するだけはないのです。事実、この曲はこんなラインから始まる。

I just can't help believing though believing sees me cursed
信じないではいられない たとえ信じてひどい目に遭っても


現代社会への辛辣な批判と同時に、「信じる」という希望が歌われる。

彼らは2006年に1枚のアルバムをリリースし、その年のサマソニに来て以来、何をしているのかわからない、そもそも活動しているのかさえもわからない状況です。しかし、この唯一のアルバムがとにかく素晴らしい。

ジョニー・ボーイ (Johnny Boy)

ジョニー・ボーイ (Johnny Boy)

このバンドロゴもやはり「ミーン・ストリート」から着想を得ていて、タイポグラフィをもじっています。

上で紹介したような、キラキラと光の粒が流れるがごとき多幸感と高揚感に満ちたサイケデリックな曲もあれば、エレクトロニックなビートが刺激的な曲も、初期衝動溢れるパンクな曲もあります。そしてどの曲も非常にポップ。アルバムを通じて歌われるのは、現代社会への告発。そうした辛辣な歌詞とは裏腹に、その音楽はバラエティに富んでいて非常に楽しいものになっています。

と、これまで書いてきたことは、全部このアルバムの日本盤についてくる田中宗一郎氏のライナーノーツからの受け売りでございます。これ読んで「ミーン・ストリート」という映画を知り、以来ずっとレンタルビデオ店で探していたんだよね。あの頃はけっこうタナソウに感化されていたなあ。まあ中学生だしね、しかたない。

今回「ミーン・ストリート」を観たことをきっかけに久々にJohnny Boyを聴き返してみたけど、やっぱりものすごい名盤だわ。こんなにもパンクでポップな音楽はなかなかないでしょう。