アウトレイジ

予告とかポスターとか見て「絶対これ私好みだよなー」とは思ってたんだけど、なんとなく優先順位が低くて観てなかった「アウトレイジ」。こないだ兄さん姉さんに「あれは観たほうがいいよ!」と背中を押してもらって、やっと観た。うん、いや観る前から絶対好きなのはわかってたのよ。

初キタノだよコノヤロウ!

関東最大の暴力団・山王会。その会長である関内(北村総一朗)が配下の池元組とその兄弟分の村瀬組の動きに苦言を呈するところから話は始まる。そしてそこから巻き起こるヤクザ界の生き残りを賭けた仁義なき抗争(かなり盛った表現)を描く。

で、その話の中心となるのが、上からの命令で面倒事や尻拭いをさせられ、損な役回りばかり引き受ける山王会の弱小・大友組、というのがまずおもしろい。関内やら池元やらのムチャぶりに文句を言いながらも、仕事はしっかりこなす大友(ビートたけし)達の昔気質なところとその振り回されっぷりが見ていて楽しいのよな。こんなふうに上の人間の都合のために振り回される人は普通の会社にもいると思うが、会社ではどういうポジションの存在になるんだろうか。しかしまあ、よく見る光景である。こういう「ヤクザ界の話だけど、こっちの世界と変わんねーじゃん」っていう「あるある感」とか、あるいは抗争を起こして業界再編、組織のスリム化を図るっていう話の発端自体が「今っぽいユーモア、ギャグ」として機能しているところがいい。時代感覚的なものを笑いに取り込むという。テレビではよく見ていても、現役のコメディアンとしてのビートたけしって案外知らなかったりするから、最初のうちはただ彼のユーモアに触れるだけで新鮮。しかもコーエン兄弟に通じるような(ボスの後ろにいっつもいる息子とかそんなの彼ら好きじゃないですか)低体温のコメディに仕上がっていたから、私としては軽い驚きと気持ちよさを感じた。ラーメン屋のシーンでお客さんが音楽聴いてて周りの状況把握できてないのとか、ああいうのすごい好きなの。ニヤニヤしたの。

しかし、話の軸に置かれているのが、上の都合に振り回されるヤクザ達、言ってみれば抗争の中心でありながら実は巻き込まれた格好である連中なので、全体に散漫な印象があるといえばある。人物の背景は見えないし、わちゃわちゃしている。脚本に関しては指摘すべきポイントは多いのかもしれない。でも私はそういうことは全然気にならなかった。だってこの映画には「見せたいもの」がちゃんとあるし、ダメなところがあろうとも、少なくとも最初に定めた「『見せたいもの』を見せる」という点では勝利していると思うから。

「どういうふうに人を殺すかというプロセスをまず考えて、それにストーリーを肉付けした」。たけし自身がこう語っているように、これは「暴力博覧会」映画といえる。殺し方だけでなく拷問の仕方もバラエティに富んでいて、トラウマになりかけるものもあり。この作品の場合、ストーリーを最後まで話すよりもどんなふうに死に、あるいは拷問されるのかを語ってしまうほうがネタバレになると思う。つまりこれはそういう映画なのだ。この映画が見せたいのはそういうこと。

ただ個人的な(本当に個人的な)話をさせてもらうと、あれ以上のレベルの暴力描写だったら見ていられなかったろうなあと思う。銃のバイオレンスは全然平気だし、人がたくさん死ぬのもまあ平気なのだが、人が痛がって苦しんでいる姿を見るのは辛い。拷問シーンのほうが首とれちゃうとかより怖いよね。本来人を傷つけるために使うものじゃないものでの暴力は尚更。でも見ていてゾクゾクしたのも確かであって、ラスト15分のバイオレンスには小気味よさなんかも感じちゃったりしたから、ほんとはけっこう暴力シーンも気に入ってるんだけど。(二度と見れないシーンもあるがな)

まあそんな個人的なことは置いといて映画の話に戻ると、この映画における「ヤクザ」っていうのはバイオレンスを生み出す装置であり、架空のもの、ファンタジーなんだと思う。ヤクザのリアルな世界を描くんじゃなく、はじめからフィクションとしてのヤクザを描いているから、いろんなことが自由にやれたのではないかなーという気がするし、この映画を語る上で最も重要なポイント「色気」もヤクザのファンタジーから生まれている。

この作品は鼻血が出そうな勢いで色っぽい映画なのだ。画面に独特のセクシーな艶があって、見ているだけでうっとりする。この艶は映像技法によるものというより、映画の内面から滲み出ているもののように思う。フィクションとしての「ヤクザ」の世界に潜むバイオレントでエロティックなものが画面に艶となって表れているというか。もちろん技法面、撮り方にも力が入っていて、映画として勝負している瞬間がいろいろあったと思う。例えば、拳銃を撃って硝煙がふわっと立ちのぼるところとか、さりげない画にこだわりが見えたし、ゾクッとさせられた。一つ一つの瞬間を切り取ってそれぞれ細部まで見て味わいたいほど、画が贅沢。こういう画に艶があってこだわっている映画は嫌いになれないし、この点においてはこの作品は大勝している。(これ観てから映像に対するハードルが上がってしまって、他の映画観ても画にもの足りなさを感じたりしてる)

役者陣はみんなよくて、やはり一番おいしかったのは椎名桔平だろう。あのニヤニヤには否応なく惹き付けられる。他は、会長・組長連中よりも、杉本哲太三浦友和などの頭連中がよかった。No.2の美学みたいなものが働いているんだろうか。No.2であるゆえに、彼らは輝いているのよね。頭連中がとっさに作る共犯関係めいたもの(目配せとかね)もめっちゃくちゃエロくていい。特に椎名桔平杉本哲太のやりとりがすごく好き。

そう、この作品実は、○○と××みたいにペアにするとおもしろいっていうのがいろいろあって、例えば加瀬亮演じる石原とグバナン共和国在日大使の組み合わせは最高に笑った。他にもいろいろあったのだが忘れてしまったな。そうだ、ビートたけしの大友と小日向文世の刑事。これもよかった。まあ俳優は本当にみんないい仕事してたし、よく撮られてた。たけしがこんなに男優を色っぽく撮る人だとは思ってなかったので驚き、そして尊敬。加瀬くんにインテリヤクザの役をあてたり(オールバック×めがね!)、いろいろとわかってる人だなあと思った。たけしのイメージがちょっと変わった。



「見せたいものを見せる」「画にこだわる」という二点では最近観た中(全部洋画だが)でもかなり高いレベルを誇っている作品だと思う。これから北野作品も掘っていかねば。でもバイオレンスの服用には注意が必要だ。次は「キッズ・リターン」だよ。

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