映画感想(まとめてでごめんなさい)その1

これまでは観賞から1ヶ月近く経っても、できるかぎり書けるものは感想を書いてきたわけですが、いよいよ年の瀬が迫り「あー、これ今年中に全部書き終えられないわ」ってのがわかってから急に筆が重くなってしまって、書かなくてもいいかなーと思ったりもしたんですが、「いや、さすがにこんなに書き残しを作るのはよくない!」と思い直して、簡単にではありますがまとめることにしました。明日その2をやりますね。


ウィンターズ・ボーン

もはや涙すら出てこないほどにハードコアなヒルビリーの世界を描いた作品。

色調がどんどん暗く沈んでいく映像によって、ミズーリのあの土地一帯を取り巻くどうしようもない閉塞感、どん詰まりがじわじわと描き出される。筆致は淡々としているけれど、一つ一つのカットが積み重なり層になると、ずっしり重い。

そんな過酷な世界の中で、家族と土地を守るため一人闘う主人公を演じたジェニファー・ローレンスのなんと逞しいこと。彼女のハードボイルドなタフガールぶりこそがこの映画の何よりの魅力だ。やるしかない状況に追い込まれ覚悟を決めた、その力強い瞳とすべてを負った背中を見たら、もう何も言えなくなってしまう。化粧をせずシンプルな(というか地味な)出で立ちであっても滲み出る彼女の美しさと凛々しさが、彼女のこの世界を生き抜く強さそのものなのだな。主人公の叔父を演じたジョン・ホークスの枯れた色気も素晴らしかった。この映画は役者の力に拠るところがとても大きいね。

サスペンススリラー的ではあるものの、ヒルビリーの実態を「暴き出す」のではなく「紐解いていく」目線のしなやかさもいい。この映画では度々ヒルビリーミュージック、とりわけバンジョーの音色がフィーチャーされる。バンジョーは逃れられないヒルビリーとしての血を象徴する一方で、彼らの生活と歴史が染み込んだものであり、ヒルビリーを理解する最初のヒントになりうるのだと、ラストシーンを観て思った。

好きな映画とはちょっと違うのだけれど、映画館の暗闇であのどん詰まりの感覚に覆われる経験というのは特別なものだったと思う。ドイツ語の授業が休講になっていなければスルーしてしまったかもしれない作品なので、巡り合わせに感謝したい。


「人生、ここにあり!」

バザリア法の制定によって精神病院がなくなり、一労働者として扱われることになった精神病患者の人々が、熱心な組合員の力を借りて「自らの足で生きていく」姿を軽快に、痛快に描いた、イタリア発の素敵なコメディドラマ。

実話が基になっていることもあり、当時のイタリアの政治的・社会的状況が物語と深く関りをもって描かれているのだけれど、かといって現実に対してシリアスになりすぎず、軽やかに陽気に語っていく様がなんだかイタリアっぽい。なんて思っていたら、終盤で唐突に事件が起こり、現実の問題を突き付けられて胸が苦しくなった。救えるものもあれば、救えないものもある。そんな厳然たる事実から目を逸らさない強さもこの映画は持っている。

邦題は原題(直訳で「やればできるさ」)とはまったく意味が異なるのだが、「私の力で私のために生きること=人生」とするならば、まともに働くことなんてできないと思われていた障害をもつ人々が自分たちでお金を稼ぎ生活する姿は、まさに「人生、ここにあり!」を体現していると思う。彼らが初めてネッロに反対した瞬間はちょっと涙ぐんでしまった。これは自分の人生を自分で歩むために立ち上がる映画なんだ。だから「実話の映画化」なんて枠を越えて、普遍的な魅力を持っている。

性の問題に切り込むのはよいものの、その描き方がちょっと乱暴だったりと、すべてが完璧なわけではないけれど、人生を謳歌することを大切にした映画は好きにならずにいられないのです。そしてジージョかわいいよ、ジージョ。


50/50 フィフティ・フィフティ

脚本家の実体験を基にしただけあり、非常にリアルで細やかな心模様の描写が魅力。「病気なんてすぐ治るよー」と明るく振る舞う一方で、どこかにある「自分は病気なのに……」という周囲への不満と「病気だからどうこうと言われたくない」という反発が生む苛立ちを丁寧に丁寧に描き出す

「5年後生存率50%のガンを患った青年を取り巻くドラマ」を、あくまで主人公から見たものとして描くことで、彼が見えなくなっていたものが逆に見えてくる。友人や家族の思いや辛さ。そうしたものが、病に立ち向かうことでいっぱいいっぱいになった主人公には見えづらくなっているのだけれど、ふとした瞬間にそれに気づく。これはその気づきを大切にしたい映画なんじゃないかと思う。ただ、だとしたら主人公の彼女が「私だって苦しかった!」と心情を吐露したときに「そうか彼女も彼女のやり方で気づかってくれたんだ!」とはならず、悪友と一緒に「病気の彼氏をいたわれないビッチ」と糾弾することで、男同士の友情を強める、そのミソジニックなホモソーっぷりにはちょっとンーとなった。そっちに持ってっちゃうかね……という。セス・ローゲンが主人公の親友役だというのでなんとなく想像はついていたぶん衝撃は小さかったのだけれど(しかもセスと脚本のウィル・レイサーは実際に友だちらしいす)。や、セスの出演作を観たのはこれが初めてだったのですがね、周囲の評価からなんとなく……はい、ごめんなさい。

ただ、あまり好きになれなかったセス・ローゲンではあるけれど、喋り方には惹き付けられるものがあるなーと思い、声優で参加している「宇宙人ポール」への期待が高まった(そしてこの作品でのセスはすごくよかった!)。主演のJGLは相変わらずキュートで、柔らかな演技が好印象。でも頭の形はそこまで綺麗ではないのね。そして失恋中のアナ・ケンドリックほどかわいいものはないと再確認。

リアルなドラマとしては巧いけれどもフィクションとしてはもう一歩先へ行けただろうという気もして、例えばあのラジオ番組がしっかり回収されていれば物語はより一層力強くなったと思うんだけども、まあ最後のJGLスマイルが最高に素敵だったからいいかなあなんて思ってしまうくらいには、私はJGLの魅力にやられています。


「タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密」

思ったより評判の悪い本作ですが、スピルバーグフリークでも何でもない私はというと、けっこう楽しめました。いや、というか普通におもしろかったと思います。

ただ、事前に「映像はすごいけどお話が……」という感想をいっぱい目にしていたことが、想像よりずっと楽しめたことの大きな要因であるのは間違いなく、「物語はともかくとして、スピルバーグが作り出した迫力の映像を隅から隅まで楽しみ尽くしてやろう!」という姿勢で挑んだのがよかったのだと思う。それに、苦手の3Dでなく2Dを潔く選んだので、しっかり映像に集中できたのも大きい。

かくして「スピルバーグvs私」という結果が見えすぎな対決が実現したのだけれど、やっぱり私は惨敗してしまって、スピルバーグの生み出した世界をすべて飲み込むなんてことは到底ムリな話だった。そのことに対する敬意というか、これだけのものを突き詰めたことへの素直な「すげえ!」という気持ちはやはり大切にしたいと思ったし、一コマ一コマに込められた熱量は決して一回観たくらいで受け止めきれるものじゃないからこそ、あの4分間長回しには盛大な拍手を送りたい。まあ、「迫力の映像を楽しみ尽くしてやるぜえ、グヘヘ」と目をギラつかせながら観るのは、あまり健康的な観賞とは言いがたいけど(笑)。

主人公タンタンが魅力薄だったり、冒険ものでありながらドキドキワクワク感が欠けていたりと、難点も少なくないことは確か。それでも「一つのことを突き詰める」ことのすごさに私は圧倒されたのでありました。



ちなみに

今後のスケジュールですが、明日この続きを書き、29日からいよいよ今年の総括。最初に音楽編、30日に映画編の予定です。できるかな、できないと困るな。まあ、ぼちぼちやっていきますので、どうぞよろしく。