ロシアン・ルーレット

昨年のイサム映画を補完すべくDVD借りて観てみたのだが、う、うーん……。

ロシアン・ルーレット ブルーレイ&DVDセット(初回限定生産) [Blu-ray]

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http://www.russian-roulette.jp/

グルジア出身のゲラ・バブルアニ監督の「13/ザメッティ」を、バブルアニ自らが舞台をアメリカに移してリメイクした作品。オリジナルは未見。貧しい青年が一攫千金のチャンスを聞きつけ指定の場所にやってくると、なんと生きるか死ぬかのロシアン・ルーレットが行われていた――


うーむ、これは……何とも言えぬ出来だった。つまらなくはなかったし、コンパクトにまとまっていてテンポもよかったとは思うのだが、ロシアン・ルーレットという生死を賭けたゲームを題材にし、キャストもこれだけ濃いメンツ(ミッキー・ロークジェイソン・ステイサム50 CENT etc...って!)を揃えていながら、こんなに薄味の映画ってあるだろうか……。最後までどうにも掴み所なく終わってしまったなあ。

この掴み所のなさは、おそらく「ロシアン・ルーレットというゲームを通してこの作品は何を描きたかったのか」というのが最後まで見えてこなかったことに因るんだろう。何故男たちは己の命を賭けてまで金を欲するのか?その目的は?それをこそ、この映画は描きたかったんじゃないのと思うのだが、どうもその部分が弱いように思えて、そのため各々の思惑や欲望が渦巻くアンダーグラウンドのギラつきがまったく感じらず、あっさりした印象だった。例えば、主人公がロシアン・ルーレットに参加する(彼は会場に着くまでロシアン・ルーレットをやらされるとは知らなかったのだが)背景には、父の入院費やその他家族の生活費をどうにか捻出しなくてはならないという貧困の問題があるわけだけど、なんだがそれも賭けに参加する口実として描かれているかんじで、彼の豊かさへの渇望には繋がってこない。

いや、というのも、どうやらオリジナル版のほうではその主人公の飢えというのが一つのキーになっているようで、どうしてリメイク版の本作ではそれを捨ててしまったのかなあというのが引っかかるのだ。アメリカというよく知らない国/土地を舞台にしているため、そこでの貧困の描き方には慣れていないというのはあっても、オリジナルにはあったらしい、主人公が一張羅のスーツや靴をぞんざいに扱われたことにむっとするような反応を示すシーンを削ってしまうのは、さすがにもったいないと思う。

その他のキャラクターに関しても背景は見えてこずで、まあ見えないなら見えないでよいのだが、単に数合わせ的にいるような人が多いので気分が盛り上がらないままゲームに突入してしまう。では、元々は特に目的も背景ない主人公たちがゲームに巻き込まれる中で何かを見出だしていくのかというとそれも違って、ゲーム自体は非常に淡々と進んでいく。基本的にこのロシアン・ルーレットというのは、撃つ→何人か死ぬ→生き残った者は次のステージへ→撃つを繰り返すだけで、役者の演技でどうにかゲームに緊張感を保っているようだった。しかもキャスト的に誰が生き残るか簡単に予想がつくんだな……いや、別にそれ自体は構わないのだが、彼らが生き残る根拠が主要/大物キャストだからということ以外にないのだ……。そして「それでいいんだよ!映画なんだから!」と押しきる勢いやゲーム自体の危ない愉しさもなかった。

役者陣は損な役回りの人が多い気がして、これもまた何とも……。それぞれいい仕事はしているのだが、そのキャラクターがいることによって映画に与えられるものが不明確で、特にミッキー・ロークのパートなぞは蛇足と言っていいよな……そりゃミッキーさんが自分の出演作品だってのに酷評したくなる気分もわからなくない。いや、もっと残念なのは50 CENTか。目当てのジェイソン・ステイサムはこの作品でも随一の「悪いヤツ」を好演していたのだが、主人公の飢えの描写が弱いのでヴィランとしてキャラが立ってこないのが惜しい。同じ理由で、主人公を演じたサム・ライリーも「普通の青年」の怯えと震えを見事に表現していながら、何か物足りない印象を受けた。

そんな中で一番輝きを感じたのは、ゲームの進行役を演じたマイケル・シャノンだった。この人は「ランナウェイズ」でも怪演を見せていたけど、ここでもウザい存在感を示していて素晴らしい。あのゲームの場に漂うイヤにピリピリしたかんじを生み出していたのは間違いなく彼。神経を逆撫でされるような煩い声が耳をつんざく。

と、だいぶ辛めの感想になってしまったのだが、そんなに退屈したわけではない。ただ焦点が定まらぬままゲームが進行していくので、大金に群がる男たちの欲望が霧散してしまい、結果として散漫な印象になった。オリジナルのほうはその点がよく描かれているみたいなので、機会があれば追ってそちらも観てみようと思う。