すんげえ今更なLana Del Rey話

Lana Del Reyのデビューアルバム、Born to Dieに収録されているBlue Jeansのビデオが公開されたので、この機会に1ヶ月も放置していたこれ(http://d.hatena.ne.jp/momochixxx/20120219)の続きを簡単に書こうかと思います。いやあね、変に予告とか前フリとかしてしまうと書けなくなりますね。思わせぶりは自分の首も締めるというか。前フリは無視して書いていきますよ。


本題の前に、まずBlue Jeansのビデオをペタリ。

今回は全編モノクロ、曲同様にロマンチックな仕上がりです。ラナの表現は、音楽のみならず映像の分野においても一貫しています。執拗に出てくるのは、プール。アメリカ文化において、昔から成功の象徴とされる、古典的なアメリカン・ドリームの記号です。このビデオの中で、ラナはほとんどずっと相手役の男性とプールの中で戯れている。これは彼女がアメリカン・ドリーム、ひいてはアメリカ的なるものにどっぷりと浸かっていることを表しているのではないでしょうか。

このタトゥーだらけの男性はアルバムの表題曲のビデオでもラナの相手役を務めています。

こちらはなかなか衝撃的な幕切れ。血まみれのラナを恋人が抱いています。こうやって見ると、MVの中で相手役の男性とキスなどの絡みをがっつりこなしているラナは、自分自身を一つの表現作品として作り上げているのかもしれません。


プレス・リリースには、ラナのこんな言葉が載っています。

「"アメリカン・ドリーム"と『アメリカン・サイコ*1が、段々同じものを意味し始めてる〜中略〜死は芸術だわ。私達はポップ・ミュージックを使い果たしてしまった。そういった健全な夢は死んでしまったのよ」

ラナの表現の本質は、この言葉にこそ集約されているでしょう。彼女が歌うのは、今はなき"アメリカの夢"。それは、上記のエントリで取り上げたRadioをはじめとする楽曲の歌詞を見れば、よくわかるでしょう。先ほども言ったプールに加えて、スポーツカー、ラス・ヴェガス、ジェームス・ディーンなど、華やかで夢のあるアメリカン・ポップ・カルチャーを連想させるワードが、彼女の書く歌詞には並んでいます。

しかしラナは、そういった"アメリカの夢"が失われたものであることは知っているけれど、その死を「宣告」することを目的としているわけではないと思います。Radioには、「I swore I'd chase 'em till I was dead=死ぬまでアメリカン・ドリーム*2を追求すると誓った」という一節がある。つまり彼女は、アメリカン・ドリームがもはや健全な姿を保てないことを理解しながら、それに一生ついていくと言うのです。

その気持ちは、私にもなんとなくわかる気がします。現代に住む私たちは、これまで世界を牛耳ってきたアメリカの傲慢さや罪深さを重々承知しているけれど、それでも私はアメリカ文化に強く惹かれている。ハリウッド大作の贅沢さに何度となくうっとりし、「ソーシャル・ネットワーク」や「マネーボール」などのアメリカの神話を好んで観てきました。「アメリカン・サイコ」や「ファイト・クラブ」のような闇の面を持っているとしても、今もなおアメリカン・ドリームに抗いがたい魅力があるのは確かでしょう。

ラナはきっと、そんなアメリカン・ドリームの危険な誘惑に身を預けているのだと思います。彼女は「"アメリカの夢"はもう死んだのよ」と言いながら、音楽や映像などを通してアメリカン・カルチャーのイメージを全身に纏うことで、その喪失と破滅の美を体現しようとしているのでしょう。時に人々の心や体を蝕んでいくアメリカン・ドリームの危ない香りに、恐らく耽溺しているのです。まるで、彼女が多くの楽曲の中で歌っている、破滅的で報われない、けれども決して諦めることのできない恋愛のように。彼女の中で、恋愛とアメリカン・ドリームは同義なのかもしれません。自分の身を滅ぼすとわかっていても、どこまでもそれを追い求めようとする。

最近アメリカ文化に興味が出てきた私は、ラナのこういう「ザ・アメリカ」な部分に惹かれます。でも、これはアメリカ文化を外から眺める人間の楽しみ方であって、内からそれを知っている人たちと感じることに違いがあるのは当然です。だから、彼女に対するアメリカ本国での評価については、きっちりと理解できない点もあります。前のエントリでも書いたように、彼女の歌詞世界はまるで1920年代の小説「グレート・ギャツビー」のようで、アメリカの人々がそれを時代遅れで陳腐だと批判するのもわからなくはない。それでも、彼女の表現の退廃的な美しさや溢れんばかりのロマンチックさは本物だと思うのです。

*1:ウォール街で働くエリートが快楽殺人を繰り返すストーリーの小説・映画、私は未見です

*2:この一節の前にAmerican dreamsという語句が出てくるので、'emはそれを指す、はず