2011年のまとめ【音楽編】

今年も母数はかなり少ないですが、お気に入りのアルバム十選をやりたいと思います。カウントダウン形式でコメントを少々。商品紹介は全部日本盤を貼っておきます。


【私的2011年ベストアルバム10】

10. Era Extrana/Neon Indian

エラ・エクストラーニャ

エラ・エクストラーニャ

チルウェイブ/グローファイと呼ばれるジャンルが何のこっちゃわからない私ですが、その代表格とされるこのバンドはよく聴きました。

うにょうにょと渦巻くシンセサウンドは夢見がちでエモくて、でもどこか暗さも抱えていて、その光と闇の両面を持った音世界にずぶずぶはまっていくのがとても気持ちいい。この表情豊かな音色はドラマチックとすら言えるほど。気怠いボーカルも周りの音と溶け合い、どこか刹那的で現実を忘れてしまうような快感をもたらす。これが「チル」ということなのかもしれないが、ポジティヴィティとダークネスを同時に孕みつつ形を変え続けるこの音楽を単なる「エスケーピズム」と切り捨てるのはすごくもったいないと思う。まだまだ全貌を現していないように感じるので、次作が楽しみ。


9. Hello Sadness/Los Campesinos!

ハロー・サッドネス~さよなら勇気、悲しみよこんにちは

ハロー・サッドネス~さよなら勇気、悲しみよこんにちは

ファーストからずっと好きで、思い入れのあるバンドの4枚目であり、力作だけれど暗すぎるように感じた前作から少し力が抜けてラフなかんじになったのにホッとした。

このバンドにはいつも期待と同時に同じだけの不安を感じていて、そんな不安定なところが彼らの魅力の一つだと私は思うのだが、今作はそんな彼らにしては最初から最後まで安心して聴けるオーソドックスなポップ/ロックの良盤。USオルタナ影響下のギター、トレードマークであるストリングスやグロッケン、以前より光が当てられているキーボードといった各楽器のバランスがとてもよく、ギャレスのボーカルは相変わらずエモーショナルでありながら落ち着きが出てきた。プロダクション面での成長著しかった前作で得たものをさらりと披露する姿には、かつての有り余るエネルギーが暴発し、故にキラキラ輝いていたロスキャンの面影はなくなっているかもしれないが、すでに何人ものメンバー脱退を経験しているこのバンドは常に何かを「失いながら」前進しているのではないだろうか。深く深く闇に潜った、その到達点が前作だったとすれば、これはそこから一旦地上に出て日の光を浴びた「始め直し」の一枚のようにも感じられるし、これから彼らがどんな音楽を展開していくのかがすごく楽しみになった。去年のGirlsのEPがそうであったように、私は「これから」を期待できる音楽が好きなのだなあ。思い入れがあるだけコメントが長くなってしまった……。


8. The Rip Tide/Beirut

ザ・リップ・タイド

ザ・リップ・タイド

地平線の向こうまで広がる大地を、楽団を引き連れてゆっくりゆっくり歩いていく、そんなロードムービーのようなアルバム。

ジプシーミュージックなどを通過しているというその独特の音楽は、ブラス、ピアノ、ストリングスといった種々の楽器、そして声も含めた様々な音色がどれも一切反発しあうことなく溶け合い有機的なアンサンブルを奏で、美しく滑らかなサウンドスケープを描いていく。低く艶やかなザック・コンドンの歌は、胸をかきむしる衝動とか豊かな感情表現があるわけではなく、いたって平熱なのだけれど、聴いていると何だか満足感でいっぱいになる。特別なことは何も起こらない、ただどこまでも続いていく道を車で行くだけなのに、不思議と満たされた気持ちになるみたいに。


7. Dye It Blonde/Smith Westerns

ダイ・イット・ブロンド

ダイ・イット・ブロンド

一曲目のWeekendに一目惚れならぬ一耳惚れ。今年この曲を何度リピートしたことか。

簡素なガレージロックにやたらめったらキラキラしたシンセが被さっただけ……と言ってしまえば確かにその通りなのだが、そうして出来上がった音が最上級の多幸感と瑞々しさに満ちているのだから不思議だ。おかしな方向に捻れたユニークなギターの音色、キュンキュンくるメロディにもときめいた。若さ溢れる甘酸っぱいサウンドであるが、甘さ控えめで酸味が少し強いのが、シュガーコーティングされたようなスウィートすぎる音が苦手な私好みだし、若さにつきものの痛みや苦みはさほどなく風通しがいい音設計なのも聴きやすかった。


6. Yuck/Yuck

ヤック

ヤック

こちらも一曲目Get Awayの最初のギターがもう大好きで。Smith Westernsとはまた違ったかんじの若い音楽。

まんま90年代USオルタナの再現で、趣味的な音楽であるのは間違いないけれど、そのことには本人たちも自覚的なのではないかなと9月に行われた初来日公演を観ていても思った。というか、登場の瞬間から彼らが纏っている"空気"があまりにも明確だったもので、そこにはちょっと笑ってしまったりもしたのだけれど。ただあのライブで私自身が再確認したのは、彼らの「今、自分たちはこういう音楽を愛していて、それを自分たちでも演ってみたいんだ」という無邪気な姿が私は好きなのであり、その無邪気さが彼らの音楽に瑞々しさとして反映されているのだということ。彼らの音楽が持つ「鮮やかさ」はそこに由来しているのではないだろうか。


5. Suck It And See/Arctic Monkeys

サック・イット・アンド・シー

サック・イット・アンド・シー

なんだかんだでこの人たちにはまだ一度も期待を裏切られたことがないんだよなあとか、感慨にふけってしまう一枚。

評判の悪いサードも聴いてみれば悪くなかったし、先行的に公開されたBrick By BrickとDon't Sit Down Cause I've Moved Your Chairの2曲はまったく琴線に触れなかったけれど、それでもどこかで期待していた4枚目は、蓋を開けてみれば実に私好みのメロウな歌ものアルバムだった。ソングライティングの系譜としては、Mardy BumやFlourescent Adolescentのようなポップなメロディが核にあるものの並びにあるが、ああした曲にあった青臭さが今作ではなくなり、とってもあったかくて丸っこい手触りの音になっている。端々では、セカンドやサードで身につけたヘビーネスや渋さも聴きとれて、この人たちはやはりずっと前進し続けているのだと改めて感じた。何より、アルバムタイトルが意味している「とりあえずやってみよう」という軽やかさがいい。


4. Father, Son, Holy Ghost/Girls

ファーザー、サン、ホーリー・ゴースト

ファーザー、サン、ホーリー・ゴースト

昨年のEPを聴いて抱いた期待が現実になった喜び。初めて聴いたときは感動して泣きそうになった。

2009年リリースのファーストは完全な宅録作品であり、決して音質がいいとは言えないザラザラしたサウンドの中にダイヤモンドの原石のようなグッドメロディが光る名盤であったが、私はあの今にもノイズの波にさらわれてしまいそうな儚い美しさが少し苦手でもあった。だってなんだかこのまま消えていってしまう気がしてね……世捨て人みたいで心配だったのだ。しかし昨年のEPでは設備の整ったスタジオでの録音となり、ダイヤモンドは見事に磨きあげられた。そしてもたらされたのは、もう波に流されることのないポップミュージックとしての強さ。言ってみれば、優れた才能を持った画家がいい筆といいキャンバスを手にしたようなものではないだろうか。今作はそんなEPからの流れを引き継ぎ、素晴らしいメロディを更にブラッシュアップして昇華した最高のポップソング集。少々長すぎるのたけが玉に瑕かな。


さて、ここから上、トップ3は一応順位つけたけれど、ほんとはどれが1位になってもいいくらい好きです。ではどうぞ。


3. La Liberacion/CSS

ラ・リベラシオン

ラ・リベラシオン

シティガールにもカントリーガールにも、そしてもちろんシティボーイにもカントリーボーイにも聴いてほしい一枚。

彼女たちはこれまでも自分たちのやりたいことをのびのびと思うままにやってきたが、そんな彼女たちの自由なスタイルの根幹にある「一人の自立した女性として生きていく」という逞しい精神が露になったアルバムではないかと思う。そして特にそれを強く打ち出したのが3曲目のCity Grrrlであり、この曲の最後でラブフォックスが世界中の女の子を鼓舞するように歌う"Heads up girl. You can rule this place!!!"という言葉はこれからもずっと心に刻みつけておきたい。レゲエやスパニッシュギターを採り入れるなど音楽性も広がりを見せ、これまで通り陽性の魅力に満ちたポップな一枚であり、元々はド素人集団から始まったこのバンドの一つの集大成と言えるかもしれない。


2. The English Riviera/Metronomy

イングリッシュ・リヴィエラ

イングリッシュ・リヴィエラ

上半期とにかくよく聴いた一枚。架空のリゾート地、The English Rivieraに思いを馳せて。

6曲目のTroubleを聴いていると、「すれ違う二人」を歌った歌詞の切なさもあって(すれ違いソングが好きなのです)、いつも泣きそうになってしまう。彼らの音楽には、普段誰も/何も到達することのできない、心の奥深くの大事な部分にすっと迫るような力がある。誰もが持っている根源的な「ひとりぼっち」の感覚にそっと寄り添って、心の中で静かにステップを踏ませる、そんな力が。「アメリカに西海岸があるなら、こっちはイギリスの西海岸をやろう」といって作られという今作は、どこにも存在しない浜辺の夕景を思い浮かばせる、なんともエレガントで美しい至極のポップアルバム。購入前にタワレコで試聴しようとしたとき、どんなに音量を上げても店内で流れるフーファイに負けてしまって、ろくに聴きもせず買ったのがいい思い出。


1. Torches/Foster The People

トーチズ(期間限定盤)

トーチズ(期間限定盤)

これを1位にしたことで何かのステートメントとしたいわけでも、時代がどうこう言いたいわけでもなく、ただとにかくこの音がツボだった。それに尽きる。

MGMTPassion Pitを引き合いに出されるようなインディー好きのする音でありながらナードさはほぼなく、ある意味軽薄さすら感じる伊達男っぷりが彼らの強みであり、全米で大ヒットを記録した最大の要因と言ってもいいと思う。80'sフレーバーをふりかけたエレポップサウンドは否応なくリスナーを踊らせるし(今聴きながら書いてるけど、半分踊ってます)、ちょっとクセのあるメロディとボーカルは一度聴いたら耳から離れない。そして何より、色っぽい。ダンスミュージックとしてやはりセクシーであることはとても重要だと思う。そんな絶妙な「軽さ」を備え、全員ルックスがいいという彼らだが、このバンドで成功する前からそれぞれ長く音楽を続けていたという経歴からもわかるように、実際は職人気質の強い人たちでもある。様々な楽器の音色を重ね合わせ、ポリリズミックなビートを採り入れたりしたプロダクションは、非常に凝っていて濃密であり、彼らがいかに音作りにこだわっているかが窺える。今年最大級に踊れるハイブリッドな音楽を生み出したのは、彼らのそうした「純粋に素晴らしいポップミュージックを作りたい」という思いだったのだのではないだろうか。



ということでいかがだったでしょうか。相変わらずインディー聴き始め高校生のようなラインナップですが、私はこれを愛しています。わかりやすくポップなものが好き。それはこれからも変わらないでしょう。洋楽はようわからんという人や今の音楽が追えていないという人にも、この10枚はどれも非常にわかりやすく聴きやすいと思うのでオススメです。

最後におまけでベストソング。2曲選びました。

Under Cover Of Darkness/The Strokes

アルバムは微妙だったが、この曲は素晴らしかった。というか、この曲のおかげでアルバムのハードルが上がってしまったんだよな。過不足ないパーフェクトなバンドアンサブルにジュリアンの色っぽい声、そしてユーモア。すべてが揃った一曲。


Someone Like You/Adele

今年とにかく売れたアデル嬢の代表曲と言っていいナンバー。悲痛なエモーションを見事にものにしたアデルのボーカルがシンプルな曲をぐいぐい引っ張る。前作よりメジャーなプロダクションになった新譜は後半でお腹いっぱいになってしまったが、このラストナンバーは未練を引きずった痛切な歌詞も含め、圧巻の出来だと思う。



2011私的ベストアルバム10枚リスト↓

  1. Torches/Foster The People
  2. The English Riviera/Metronomy
  3. La Liberacion/CSS
  4. Father, Son, Holy Ghost/Girls
  5. Suck It And See/Arctic Monkeys
  6. Yuck/Yuck
  7. Dye It Blonde/Smith Westerns
  8. The Rip Tide/Beirut
  9. Hello Sadness/Los Campesinos!
  10. Era Extrane/Neon Indian