2011年のまとめ【映画編】

映画編です!こちらもベスト10を選びました。去年はすべての作品に画像を貼りましたが、ごちゃごちゃしすぎるので予告編だけ貼ります。


【2011年私的ベスト映画10】

10. ランナウェイズ-The Runaways

DVDでの観賞作品から一本だけ選出(って今年はDVDで観たのこれと「わたしを離さないで」くらいなんだけれど)。

話自体は70年代らしいロックバンドの伝記もの(セックス、ドラッグ、ロックンロール!)の枠に収まっているし、特別これがすごい!というところもないのだが、では何がそれほど私の琴線に触れたのかと言えば、明確なヴィジョンと信念を持っていたジョーン・ジェット目線ではなく、「ウェイトレスで終わりたくない」と思いつつも何をすればいいかはわかっていない、郊外に住むただの女の子だったシェリー・カーリー目線の物語だったということ。まあ、シェリーの著作が原作となっているため、彼女があまりに無垢に描かれすぎていたりもするのだが、少なくとも「彼女がそのときそう捉えた世界」を鮮やかに描き出すことには成功していると思う。ジョーンのようにすべてを賭けて自分の道を突き進む女の子を見るのも好き。でも本質的に自分はそこまでできない、ぬるい世界で育ってきたぬるい人間だとわかっているからこそ、強い芯を持たなかったが故にボロボロになったシェリーを見て涙が止まらなかった。ノスタルジーに引きずられず「あの時代」をヴィヴィッドに再現した若いキャストも素晴らしい。


9. トゥルー・グリット-True Grit

観た直後はそんなに……だったのだが、時間が経つごとにじわじわと浮上してきてトップ10入り。

個人的な話だが、今年はコーエン兄弟作品を10本以上観た年であり、そうやって多くの作品を観て彼らの魅力を理解してきたことが、この作品の評価が次第に上がってきたことにも繋がっているだろう。彼らの映画の根底にあるのは「世界の流れに巻き込まれないことなど不可能だ」という諦念にも似たものであり、そのどうすることもできない不条理をブラックな笑いに変えることを彼らは得意としているわけだけれど、そんな彼らが時折ハードボイルドに寄ったとき(「ブラッド・シンプル」「ミラーズ・クロッシング」etc...)に描く、無情な世界の中でも主体的に「生きる」人間の「矜持」が私は好きなのだ。というか、この一年で好きになったのだ。ロジャー・ディーキンスの撮る荒野が素晴らしすぎて惚れ惚れする。


8. メアリー&マックス-Mary and Max

以前ブログに書いた感想の冒頭を丸ごと引用するならば――ありのままを受け容れること、寛容であることの難しさと尊さを描いた傑作。大傑作。

初見時はケセラセラが流れて以降わけがわからなくなってしまい冷静に観れていなかったのだが、先日新文芸座のオールナイトで再見して、やはりこれはすごい映画だ!と確信に至った(もっと前にわかっていたことだけどね)。そしてそのときに再確認したのは、あけすけで時に冷徹にすら感じる語り口こそ重要であり、この映画の誠実さを示すものなのだということ。この映画のテーマは「残酷な世界を許すこと、不完全な自分を愛すこと」。だからまずは、いかに世界と自分というものが欠陥だらけかということを徹底して描く。そうしなければ真に「ありのままを受け容れる」ということに到達できないから。つまりこの映画が持つ仄かな優しさは、苦味の中にほんのちょっとの甘さを加えるという作り手の匙加減によるものというよりは、人生の過酷さを正直に描いた先にふっと現れるものなんじゃないかと私は思う。


7. イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ-Exit through the Gift Shop

これ観てからバンクシーについてちょろちょろと調べるようになってしまったほどだよ。

アートってなんだ?評価ってなんだ?アンタたちほんとにわかってる?というバンクシーからの挑戦――というよりは、グラフィティアートというムーブメントの隆盛と死(あくまで死んだのはムーブメントであり、アートそのものではない)を描いた物語として楽しんだ。スプレーやペンキ片手に夜のストリートをアートで溢れさせたあの頃から一転して、既存のアート作品を焼き直しただけのアーティスト「もどき」が一夜にして成功を収めてしまうようになったグラフィティアートの世界。そこには体制への反抗心ととびっきりのユーモアを備えたカウンターカルチャーとしての姿はない。あのエキサイティングな時代はもう戻ってこない。だからこそオープニングとエンディングの両方で流れる"Tonight the Streets Are Ours(今夜この街は僕たちのもの)"が何とも皮肉っぽく、哀しく響く。もうあの頃のようにアートによって街を自分たちのものにすることはできない――だとすれば、それまでの話を爆笑必至の物語に書きかえて提供してしまおう!というバンクシーのコメディアン精神が何ともかっこいい。


6. ステイ・フレンズ-Friends with Benefits

ブコメというジャンルへの自己言及的な作品でありながら、その根底にあるのは「批評精神」よりも「愛」。そこが素敵。

クロスカッティングを巧みに使ったオープニングからしてハートを鷲掴みにされたし、フラッシュモブやそれを活用したスタイリッシュなGQのフォントなど「今」のポップカルチャーをさらりと盛り込む抜群のセンスにも痺れたけれど、やはり何といっても私の心に響いたのは、この作品が途中から友情や恋愛を越えて「パートナーシップ」そのものについての映画になっていたから。特に後半、家族映画の趣が強くなるのだが、所謂「一般的」と言われる家族形態ではない家族のあり方の中で、どう関係を築き、どう手をとりあって生きていくかというのが、自分の家族観とぴったり合致して嬉しくなった。関係につけられる名前は様々だけれど、この映画では「友達」という言葉に「自立しつつ支え合える」パートナーシップが集約されているように思う。


5. メカニック-The Mechanic

今年のイサム映画ではこれが一番ではないかと!いやまあ「ロシアン・ルーレット」観てないのですが!

ジェイソン・ステイサムベン・フォスターが出てるから好きなんでしょ?」と言われれば確かにその通りなのだが、いや、この映画はただこの二人が出ているだけではない。この二人がきっちりと「活かされている」。スタローンにも認められた、存在だけで作品を引っ張ることのできる「昔ながらのアクションスター」らしさと、一方で実はさほど汗臭さがなくどこかフェミニンですらあって、女性客をたくさん呼び込める「新しいアクションスター」像(「メカニック」を観たときの女性客の多さ!)を兼ね備えた唯一無二のスター=ジェイソン・ステイサムが、かわいこちゃんなベン・フォスターにその流儀を教え「継承」するという、変則的なバディムービーであるこの映画が悪いはずがない。


4. シリアスマン-A Serious Man

コーエン兄弟作品から2本目のランクイン。自分でも驚き。

実にコーエン兄弟らしい、彼らのやりたいことを自由にやり尽くした作品――であるのは間違いないけれど、この作品で興味深いと思うのは、これまでカタギじゃない人々を話の核に据えることが多く、地域性の高い土地を作品の舞台にしてきた彼らが、「真面目な普通の人間」を主人公に据え、自分たちにとって「身近で」「均一的(特筆するところがない)な土地」を舞台にしたという点(舞台となった60年代末ミネアポリスユダヤ人コミュニティはコーエン兄弟が少年時代を過ごしたところ)。それは何故か?はわからないが、何となく想像してみると、コーエン兄弟はこれによって、今まで一貫して描いてきた「人生の不条理」を更に突き詰めたかったのではないかと思う。特に罪を犯していない平凡な男が次々と災難に見舞われる……そこに理由などあるのだろうか?すべてが因果応報なのだろうか?他のコーエン兄弟作品であれば、「愚かだったから」「罪を犯したから」と言えるかもしれない。でもこの作品はもうそれすらも難しい。そんな可哀想な主人公が右往左往、あたふたする様が何とも可笑しくって最高。


3. ミッション:8ミニッツ-Source Code

抱きしめたいくらい好きな映画なのだが、映画は抱きしめられない。

この前作にあたるダンカン・ジョーンズ監督のデビュー作「月に囚われた男」も静謐な箱庭映画でよかったが、この作品はそれにも増して素晴らしかった。更に言えば、この作品を観たことでジョーンズ監督の作家性を理解でき、「月に囚われた男」のほうももっと好きになった。「かつて自分だと思っていた自分はもういないのだ」というメランコリーを引きずりつつ「ひとりぼっちの闘い」に挑むというストーリーやきっちりケリをつけきるラストは月囚と共通しており、その一貫した志の熱さに感動した。更にこちらは、主人公が列車の乗客である女性に恋するためロマンチック度が増していて、映画全体がキラキラと輝いている。主人公が立ち上がるきっかけが「好きになった女の子を助けたい!」という恋心だなんて素敵すぎるよ。


2. ソーシャル・ネットワーク-The Social Network

予想通り!といろんな人から言われそうなこの作品が第2位。

初見時のエンドロールが流れ始めた際にまず心に浮かんだ感想は、「これは10年後の『ファイト・クラブ』じゃないか!」だった。フィンチャーの時代を捉える目が冴え渡っている点や少し捻れた青春映画である点など、実際共通点も少なくないのだが、もっと感覚的な部分で「10年後の『ファイト・クラブ』」だと確信する何かがあって、その何かが何なのかは今でもよくわからないけれど、ただ「ファイト・クラブ」をリアルタイムで観られなかったのがとても悔しい人間としては、この映画を10代で観ることができたのは本当に嬉しい。オープニングのジェシー・アイゼンバーグルーニー・マーラの会話から一気に引き込まれ、あっという間に駆け抜けた120分は、まるで一度も立ち止まることなく渦の中心へと疾走したザッカーバーグの青春を追体験しているようだった。


1. X-MEN:ファースト・ジェネレーション-X-MEN:First Class

こちらも予想通りと言われそうだが、感想書く書く詐欺をもう半年近く続けているので何とコメントしたらいいやら……

未だにちまちまと感想は書いていて、そちらで言いたいことをここに書くと云々かんぬん……というのは置いといて、この作品の監督であるマシュー・ヴォーンというのは「約2時間、映画の中だけに存在する世界」を作るのがとても巧い人だと最近私は思っている。映画の中だけでしか見られないエキサイティングな光景、アクション……そういったものをスクリーン上で実現するのに長けた人だと。ただこれまでの彼の作品は、「世界」はやはり見事に構築されているのだけれど、それを貫く「物語」が弱かったように思う。しかしこの作品では、長く続くコミックの蓄積や前シリーズで監督を務めたブライアン・シンガーの作品への情熱によって「物語」の力強さがもたらされ、結果としてヴォーンの最高傑作になったのではないかと、コミックも前シリーズもよく知らないから想像でしかないのだが、そんなふうに考えている。結局私はマシュー・ヴォーン映画としてしか、この作品を語れないのです。おわり。



ということで、今年も長々書いてしまいました。自分で言うのもなんだけど、すごく自分らしいラインナップの中にコーエン兄弟作品が2本も入っていてびっくり。今年、個人的に最大のトピックだったのは、コーエン兄弟を好きになったことです。今年までは「バーン・アフター・リーディング」しか観たことがなく、これがどうにも好きになれなくて苦手意識があったのだが(1本しか観てないくせに)、「シリアスマン」、「トゥルー・グリット」と2作立て続けに公開になるというので改めてトライしてみたら、どんどん彼らの魅力にハマっていった。今では大好きな監督の一人、いや一組です。

以上でひとまず今年のまとめは終了。年明けにまた何か番外編的にやるかもしれないです。



2011私的ベスト映画10本リスト↓

  1. X-MEN:ファースト・ジェネレーション
  2. ソーシャル・ネットワーク
  3. ミッション:8ミニッツ
  4. シリアスマン
  5. カニック
  6. ステイ・フレンズ
  7. イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ
  8. メアリー&マックス
  9. トゥルー・グリット
  10. ランナウェイズ