La Liberacion/CSS

今回のCSSのアルバム、日本盤と輸入盤で曲順がまったく違うという話を聞いたのだが、アマゾンで調べたところによると別に変わってない。何なんだろう、真偽は実際に日本盤と輸入盤を比べればすぐわかるわけだけど。

たまに、ボーナストラックを本編の後じゃなくて変なところにねじこんでるやつあるよね。あれはやめてほしい。曲順にだってちゃんと意味があるわけだし、それまで含めての「アルバム」なのだから。もしCSSの新譜が曲順めちゃくちゃなのであれば、私は憤る。なぜそういうのに限って日本盤を買うのだ、自分と(だって輸入盤と400円くらいしか違わなくて妹沢さんのライナーノーツとボートラがついてるならいいかなと思ったし、輸入盤はケース上部のテープうまく剥がせないとベタベタになるから嫌だったんです……)。

まあそんな話はさておき、聴きました、CSSのサードアルバム「La Liberacion」。

ラ・リベラシオン

ラ・リベラシオン

今回は曲順の真偽がわからないので、「○曲目の〜」とか「この曲からこの曲への流れが素晴らしい」みたいなことは言わないようにする。とりあえず全曲聴いてみての感想。

購入してからすでに10回くらい聴いたんだけど、これはよいです。全曲よい。パッと聴いた時点ではちょっとインパクト弱めかなと思ったのだが、聴き込んでいくごとに好きになる。「セカンド路線」という紹介をよく目にしていたので、そういうのを想像していたんだけど、ちょっと違った。もちろんセカンドの延長線上にある音ではあるけれど、今回は更に新たな方向に進んだなという印象。

この前アップした期待の新譜のエントリで、私はCSSのセカンドについて「ファーストからしっかり音楽的進歩を遂げた」と書いているんだけど、それは音楽のどういった面での進歩かというと、ソングライティングや演奏といった基盤・根幹の部分での進歩だったと思う。そもそもCSSは、唯一の男性メンバー、アドリアーノ以外音楽を作る上での知識をほとんど持っておらず、演奏も言ってしまえばヘタなバンドだった。しかし、そんな音楽素人の女の子たちが楽器を手にとって、鳴らしたい音を鳴らし、言いたいことを言ってみた、その勢いがデビュー当時の彼女たちの魅力であり、だからこそ彼女たちは特別だったのだろう。ただ一方で、音楽的基盤がしっかりしているバンドではなかった。そこでセカンドでは、ツアーを重ねてレベルアップした演奏を活かし、オーソドックスだが良質な曲をシンプルに聴かせる、普遍的なポップ/ロック路線に舵をきったのだと思う。ソングライティングを磨き、しっかりとベースを築く、当時の彼女たちはそういう時期にあった。そうして作られたセカンドは、どのトラックもとにかく曲がよく、ポップで口ずさみたくなるメロディに満ちていて、特別新しいことはしていないけれど、シンプルなロックと自由に跳ね回るような伸び伸びとした精神が融合した、非常に楽しいポップアルバムに仕上がっている。

そして今回のアルバムでは、足腰を鍛えて基本をしっかり身につけたセカンドを踏まえ、様々なサウンドへの挑戦という新たな展開を見せてくれている。例えば、ボビー・ギレスピーが参加したHits Me Like A Rockは、レゲエを採り入れた、陽光きらめくような明るいエレポップだし(ボビーのだらっとしたボーカルが曲のムードにぴったり)、コーディ・クリチェロが参加したCity Grrrlは、スパニッシュギターの妖艶な音色から幕を開けるエレクトロパンクとも言うべき曲で、中盤からはこれまたスパニッシュな香り漂うトランペットも入ってくる。他にも、Echo Of Loveという南国テイストでとても心地のよい曲もあれば、ジャカジャカしたギターを全面に押し出した、パンキッシュなLa Liberacionという曲もあり、このアルバムで彼女たちが挑戦したサウンドは本当に多岐に渡っている。

中でも、いくつかの曲でフィーチャーされているピアノのサウンドが、このアルバムの特色ではないだろうか。ピアノで表現できることはいろいろあるけれど、このアルバムにおいては音に「陰影」をもたらすことに大きく貢献していると思う。様々な角度に向けられたいくつもの面を作り、光のあたる面とあたらない面を生み出すというか。よくわからない説明だけど、影があればこそ光も引き立つわけで、ピアノが生み出すキラキラした音は常に影も孕んでいるのだと私は思っている。何曲かピアノを採り入れた曲があるが、特筆すべきはやはりPartners In Crimeだろうか。ライナーノーツによると(こういうとき日本盤は役に立つね!)、この曲にはデヴィッド・ボウイのAladdin Saneのようなピアノを入れたかったらしく、実際にその曲でピアノを演奏しているマイク・ガーソンとマネージャーがたまたま知り合いだったため、彼に依頼したのだそうだ。この曲のピアノは、濃紺の星空のようにロマンチックで素晴らしい。

また、ボーカル、ラブフォックスもデビューから5年でかなり成長している。La Liberacionではワイルドに叫ぶように歌い、Red Alertのボーカルは低くつぶやくようなヒップホップ調で、Fuck Everythingではクールネスと熱情を併せ持ったむちゃくちゃかっこいいパフォーマンスを披露している。バンドの顔である彼女はルックスも気になるところだが、今はどうやらショートヘアでパーマをかけているらしく(ブックレット参照)、これがとてもかわいい。ロングよりも好きだなあ。彼女はもともとデザイナー志望だかで、たいへんなオシャレさん。ステージ衣装が毎回気になる存在である。

ところで、ライナーノーツで妹沢さんも書いているけれど、このアルバムでは「スペイン」が一つのキーになっていると思う。タイトルのLa Liberacionはスペイン語で「自由」「解放」という意味で、表題曲もスペイン語で歌われているし、スパニッシュギターを採り入れている曲もある。しかし彼女たちの母国、ブラジルの国語(という表現でよいのか?)はポルトガル語。しかも他の南米諸国はみなスペイン語を話すわけだから、自分たちのアイデンティティーをアピールするのであればポルトガル語を使うのが普通な気がする。なぜあえて「スペイン」なのか、妹沢さんもインタビューする機会があれば訊いてみたいと書いているので、それを待ちたい。

今回のアルバムは、様々なサウンドを採り入れていて、とても冒険的であるが、彼女たち持ち前のポップネスももちろん発揮されている。軽やかに街を歩くように、伸び伸びと音を楽しむ。そんな彼女たちの自由な精神がアルバム全体を包んでいて、今回も陽性の魅力に溢れたポップな一枚になっていると思う。

そしてこのアルバムは、とにかく歌詞が素晴らしい。これまでも彼女たちは自分たちの言いたいことを持っていて、それをしっかり発信してきたと思うけれど、今回はとりわけアグレッシブ、挑戦的だと感じるのだ。

例えば、City Grrrl(このガールの書き方からもだいたいわかるような)。これは地方育ちで大都会に出ることを夢見ていた女の子(今は大都会に住んでいる)の歌。出だしからいきなりよいのだが、

I wish I'd die my hair pink
Put on black lipstick and no one would give a shit
Short shorts, short skirts
Flower tops, denim shirts...
In the big city, nothing hurts

髪をピンクに染めたいな
黒のリップを塗って 誰も気にしたりしない
ミニのパンツ ミニのスカート
花柄トップス デニムシャツ
大都会では何物も傷つけはしないの


特に次のラインが素晴らしい。

Why are you looking as if I was "abnormal"?
Oh yes you're right
I've never tried to be normal
I just wanna walk around free on my own pace
I pay my bills with the money I make !

どうしてわたしを「アブノーマル」みたいに見るの?
ああ確かに あなたは正しい
わたしはノーマルになろうとしたことなんてない
わたしはただ自分のペースで自由に歩き回りたいの
自分で稼いだお金で支払いしてね!


「自分の足で立って、好きな格好して、都会を歩き回りたいの」と、ダンサブルなビートに乗せて歌われるのは、地方育ちの女の子のなんともささやかな夢。これはもちろん、今まさに地方に住んでいて都会に出ることを夢見ている女の子にも聴いてもらいたいし、現役のシティガールにも聴いてもらいたい。というのも、この曲では最後、夢を実現させ都会にやって来た女の子が

"Heads up girl. You can rule this place !!!"

「頭を上げて、女の子 あなたはこの場所を支配できる!!!」


と自分自身に言い聞かせるのである(実際には、「わたしの夢が」だけど)。これは都会に出てきたばかりの女の子だけでなく、長年シティガールをやってきた女性たちへの鼓舞にもなるだろう。この歌詞を読んでいると具体的に顔が思い浮かぶ人がいて、私はこの曲を彼女への応援歌にしたい。シティガールにもカントリーガールにも、そしてもちろんシティボーイにもカントリーボーイにも聴いてほしい一曲。

このCity Grrrlで歌われていることが、ラブフォックスをはじめとするCSSメンバーの人生の基本理念なのだと思う。世間の言う「普通」を目指そうとはせず、ただ自由に、自立して、恋愛や友情や音楽を楽しむ。彼女たちの音楽に漂う、弾けるようにハッピーなヴァイブの根本には、このように力強い精神が息づいている。今回のアルバムでは、それがかなり色濃く表れている。他にも、タイトルからして痛快なFuck Everything(Bitch please !なんて一節も)、性について奔放に歌った、とっても官能的なRed Alertなど、彼女たちの「人生を好きなように楽しむ」姿勢が軽やかに、それでいて逞しく描かれた歌詞が並ぶ。彼女たち、普通にフェミいと思う。今回それがよくわかったし、それゆえに私は彼女たちをもっと好きになった。

ところで、このアルバムの話ではなくなっちゃうんだけど、セカンド2曲目のRat Is Deadの歌詞を書いたのって男子メンバーのアドリアーノなんだよね。ついこの前クボケンさんが、これは暴力を振るう彼氏を殺した女の子の歌、とタワレコのサイトで書いていて、それでやっと私はこれがフェミの歌であることを理解した(遅い)。実際の歌詞では「殺した」とは一言も言っていない(泣いている女の子と死んでいる男の子がいて、サビでは「彼はあなたを二度と傷つけない」というだけ)のだが、「殺した」と読みとるのもまったくおかしくはないし、「あなたを苦しめる/抑圧するものからあなたは解放されたよ」という歌なのは間違いない。もちろん、抑圧するものを殺して自由になるのがよい、とかそういうことではなく、しかしたいへんオーソドックスなフェミソングだったのだなあと今さら感慨にふける。ちなみにアドリアーノはオープンリーゲイなんだそう。全然知らなかった。このアルバムでは、「大声で叫べ おたけびをあげろ LALALA 解放しよう TETETE自由になろう」と歌う、La Liberacionの歌詞を書いているよ。



と、今回はかなりがっつりと、力を入れて感想を書いた。それくらいこのアルバムが好きなの。2011年、MetronomyもArctic MonkeysもFoster The Peopleもよかったけれど、精神のほうまでガツンとやられてしまったCSSには敵わないかな、というかんじ。音も歌詞もとても野心的なものになっているので、サードアルバムにして一つの理想形に到達したのかなという印象もある。これからがすっごくすっごく楽しみだし、とにかくライブが観たい。単独あれば、予定が何もない限り行きますよ。

それにしてもね、彼女たちはリリー・アレン以来の「私のアイドル」になったかもしれない。遅いね。個人的な話をすると、リリーたんは生まれながらのシティガールで、ミュージシャンやアーティストの知り合いもいっぱいいて、さすがに育ちは全然違うなーと思っていたんだけど、その点CSSは「ニューヨークに行くことをどれだけ夢見ていたことか」と歌っていて、そんなところもぐっときた。

今年一番誰かに薦めたいアルバム。ベストトラックは決められまへん。



【追記】曲順の話だけど、真偽わかりました。HMVのサイトでの表記が間違っていたようで、曲順は日本盤も輸入盤もボートラ除いて同じだそうです。よかったよかった。