サバイバー(チャック・パラニューク)

一日約3章ずつという驚異の遅ペースでちまちまと読みすすめていた「サバイバー」ですが、一週間ほど前ようやく読了に至りました。なんと読むのに3週間近くもかかっていた。でも、つまらなかったから時間かかったわけじゃない。単に私が読むの遅かっただけ。

サバイバー (ハヤカワ文庫NV)

サバイバー (ハヤカワ文庫NV)

ファイト・クラブ」に続くチャック・パラニュークの2作目。やっぱりこの人の文章はすごい。非常に漠然とした言い方になるけど、とにかく「圧倒的」。ものすごい強風が頭の中を一瞬で駆け抜けていくような、そんな衝撃がある。情報やイメージが脳にブワッと流れ込んできて、おかしな脳内物質を大量に放出させていくかんじ。カタルシス、という言葉がこの上なく似合う。そして読み手を物語に惹き付ける力がとてつもない。印象的なリフレインの多用や削ぎ落とされたシャープな文体でグイグイ引き込んでいく。それはまるで「渦」のようだなあと思う。そう、この人の文章ってまさしく「言葉の渦」なんだよね。この渦に飲み込まれる感覚がたまらないんだな。

構成や内容は「ファイト・クラブ」とけっこう似ているというか、対になっているかんじかなーと思った。どちらも男2女1の三者(「ファイト・クラブ」では「ぼく/タイラー/マーラ」、本作では「テンダー/アダム/ファーティリティ」)を中心としたストーリーを男の片方の一人称で語っていくし、金持ちに対する冷ややかな視線も似ている。また出自や生活はまったく異なる両作の主人公も根本的には同じタイプの人間だと思う。かたや高度資本主義に毒された現代社会で擦り減り疲弊した典型的なホワイトカラーの青年(「ファイト・クラブ」のぼく)で、かたや現代社会から隔絶されたコミュニティで育った特異な存在である男(本作のテンダー)だが、どちらも社会に馴染めず孤独な人間であることは変わらない。

本作の文庫版の解説でパラニュークは、「自分の小説はどれも孤独な人間がどうにかして他者とつながりあおうとする話だ」というようなことを書いているらしく(私が読んだのは文庫版じゃないので見てない)、「現代社会におけるひとりぼっち」は彼の作家性といっていい。そしてそんなひとりぼっち達がとる行動はあまりにぶっ飛んでいて過激なんだけれど、それは「とにかく誰かとつながりたい」というコミュニケーションへの希求に端を発している。本作では、端から見ればどうしようもない絶望的な状況の中で主人公がなんとか自分の言葉をレコーダーに録音しようとするのだが、それってまさに「世界へのラブレター」なんだよね。誰かとつながりたいのにうまくできない男の歪なメッセージ。そのメッセージには、コミュニケーションへのほのかな希望が宿っている。

ラストはいろんはふうに解釈が可能だと思うけど、私は答えは出さないでおきたいなーと思う。結果がどうであったかは必ずしも大切じゃない。誰かとつながろうと手を差し出した事実が何よりも大切なのではないかなあ。

※この作品は賞立てやノンブルが大きい数字から始まって最後に1になってて、最初は物語が逆行するのかなーと思ってたのですが、これは「逆行」ではなく「カウントダウン」を意味してたんですね。読み終えて気づきました。