引き裂かれた女

ヌーヴェルヴァーグの巨匠、クロード・シャブロル監督の遺作、「引き裂かれた女」。ヌーヴェルヴァーグもシャブロルもよう知らんので、普段の私なら絶対にスルーしている作品なのだが(というかこの映画の存在自体知りませんでしたねー)、こないだの会合のおかげで観る機会に恵まれた。

まあなんとも感想の書きづらい、不思議〜な映画だった。大筋は非常にシンプルでわかりやすいのだが、細かなところを追っていくと「???」となってしまう。特にラストシーンは謎だ。どう解釈しどう受け止めたらいいのかさっぱりわからない。しかし、それでよい作品なのだと思う。細かなところ一つ一つをちゃんと理解する必要はない。むしろ、理詰めで観ていこうとすれば途端にノレなくなってしまうだろう。感覚的に好きかどうか、それだけでいい。「考えるな、感じろ」というやつ。いや、そんなに命令口調なかんじではなく、「こっちもやりたいことをやるから、そっちも好きなように楽しんで」くらいのスタンス。感じてみて嫌いなら、それはそれでいい。シネフィル好みな作品のようでいて、実は「この映画がわからないやつは〜」というシネフィル的言説からは遠く離れた、自由でのびのびした感覚をもつ作品。この寛容さがフランス流ってやつか。おいおいずいぶん洒落てるじゃねえか。

感覚的に好きか否か――私はどうだったかというと、実はかなり気に入った。もともと頭を使う気がさっぱりなかった(小難しい映画だと思っていたので、たぶん私には理解できないから無理して考えるのやめようと決めていた)ので、理詰めで観てノレなくなるということにならなかったのも大きいが、要するになんとなく波長のあう作品だったのだよな。一緒に観たお三方の誰よりもノレたというどうでもいい自負がある。

恋愛のこじれをきっかけとするサスペンス/スリラーという触れ込みだったので、生々しくドロッとしたものを想像していたのだが、実際は終始夢に囚われているようなフワッフワした感覚になる空想の(妄想の?)映画であった。伏線というよりはただ思わせ振りなだけの台詞がたくさん出てきて、観るほうの想像力を掻き立てていく。しかし、ほんとに思わせ振りなだけなので答えはない。逆にいえば、どんなふうに受け取ったっていいということだと思う。劇中、「あなたにはあなたの真実」というような台詞が二度ほど出た記憶があるが、つまりはそれがヒントなのだろう。「あなたにはあなたの観方がある」、と。これはそういう楽しみ方をする作品なのだと思う。

そういうわけで、観る前は「小難しい映画だったらどうしよう」と思っていたのだが、そんな堅苦しさは一切なく、作り手にとっても観るほうにとっても自由な映画だったのが私にはすごくよかったのだと思う。それに、柔軟なユーモアセンスも感じた。ちっちゃく笑えるシーンがいくつもあって、観ていて全然退屈しなかった。特に日本人なら絶対笑っちゃうシーンが一つある。あれは狙ってたわけじゃないだろうけど、さすがに反則。どんなシーンなのかはぜひ観て確かめてみてください。そしてイカれたお坊っちゃまを演じたブノワ・マジメルイカれたお坊っちゃまっぷりがあまりに見事で笑ってしまう。ああも完璧になりきれるのはすごい。いっつも指先を噛み噛みし、喋れば二言目には「ママン」って言うのが少し可愛らしい。