Aim And Ignite + Some Nights/Fun.

Aim & Ignite

Aim & Ignite

Some Nights

Some Nights

当ブログではもうお馴染みのFun.のファーストとセカンド。2週間くらい前に届いて、すでに何十回と聴き込んでいますよ。一緒に届いたThe Avalanches(未聴でした)やこの少し前に買ったTeam Meの存在感が薄くなってしまうくらい、聴いています。去年のFoster The Peopleといい、私にはこれくらい直球に売れ線なものが一番しっくりくるのだ。

                                                                                                  • -


これまで散々紹介しておきながら今更な基本情報で恐縮だが、そもそもFun.は、アリゾナのインディーバンド、The Formatのボーカルだったネイト・ルイスがNYで新たに始めたバンド。このThe Format、楽曲はFun.経由で知るまで聴いたことがなかったのだけど、なーんかバンド名は耳にしたことがあるなあと思ったら、↓のやたらカワイイ犬ジャケを見て思い出した。

(一匹一匹飛び出す仕様らしい)

このジャケが印象的な、2006年の彼らのセカンド(にしてラストアルバム)Dog Problemsは日本盤もリリースされ、そのディスクレビューが当時購読していたロッキング・オンに掲載されていたのだ(当時のロキノン掘り起こして確認)。音そのものは聴いたことがなかったが、ジャケのかわいさのおかげで、ここで紹介されていたのを6年経った今も覚えていた。彼らは2007年に来日公演も行っているようで、人気実力ともに十分のバンドだったらしい。そうかー、ネイトはこのバンドにいたのだなあ。まあ、この話は今回の本題には関係ないんだけども、なんかこういうのわかると楽しいではないですか。

Fun.の話に軌道修正すると、メンバーはネイトの他に、ギターのジャック・アントノフとマルチプレイヤーのアンドリュー・ドストの二人(ライブ時はサポートメンバーがけっこう入っている模様)。ジャックもFun.結成以前から別のバンドのフロントマンとして活躍していたようだし、アンドリューも様々な楽器を弾きこなすくらいだから音楽経験は十分あるのだろう。そんな音楽的キャリアをしっかり積んだ3人が集まっているからか、彼らはデビュー作から、「円熟の」と形容したくなるような、素晴らしい出来のポップ・アルバムを作っている。

2009年リリースのファースト、Aim And Igniteは、一作目ながら初々しさや拙さをほとんど感じさせない凝ったプロダクションが特徴的で、それでいて新たなスタートを切った爽快感をたっぷり携えた良盤。ストリングスやブラスを大々的かつ品よくとりいれた、華やかなアレンジが心地よい。トゥー・マッチなようでいて、全体を通して聴くとかわいらしく端正にまとまっているあたり、センスがいいなあと思う。

このアルバムの特徴の一つは、その音に宿る「60年代70年代」感だろう。どこか懐かしさを感じるメロディをはじめとして、アルバム全体がクイーンやELOのような60年代70年代的ポップ・マナーを受け継いだサウンドに仕上がっている。例えば、3曲目All The Pretty Girlsの華麗なコーラスワークなんかはクイーンのそれを思わせる。こうしたポップ・マニアぶりは、ネイトがThe Format時代から指向していたものらしく、それがFun.にも継承されたようだ。もちろん、アレンジャーとして元祖ポップ・マニア・バンド、Jellyfishの元メンバー、ロジャー・ジョセフ・マニングJr.が参加しているのも大きいだろう(彼はThe Formatのセカンドにも参加している)。

60年代70年代感の話でいうと、レコードのA面B面を意識しているような作りもおもしろい。このことには、6曲目と7曲目の間がほんのちょっとだけ長い(ような気がする)ことから気づいた。6曲目のLight A Roman Candle With Meはしっとりとメロウで、A面の終わりでアルバムを一度締めくくるのにふさわしい曲。そしてレコードを裏返して、7曲目のアルバム中最も軽快でキャッチーなシングル曲、Walking The Dog(PVがめちゃくちゃかわいい)で再び始まる、そんなかんじ。やはりこのアルバムのコンセプトは、「往年のポップ・レコードを今ここに」なのではという気がするよなあ。

ちなみに、歌詞は一度さらっと読んだだけなので細かくは把握していないのだけど、どうやらほぼ全編に渡って、バンドの解散を経て新たなバンドを始動させたネイトの心境が綴られているよう。1曲目Be Calmの出だし、"As I walk through the streets of my new city"のmy new cityとはFun.の活動拠点であるNYを指すのだろう。故郷アリゾナを出て家族と離れたことは、彼にとって非常に大きな出来事だったようだし、バンドの解散も含め、恐らくそれはいい思い出ではないことがなんとなく歌詞から伝わってくる。それでもネイトは新しい一歩をこのアルバムで踏み出そうとしている、その決意もまた彼のエモーショナルなボーカルから感じ取れる。

                                                                                              • -


今年リリースされたセカンド、Some Nightsも爽快なポップ・レコードという基本路線は変わっていないのだけど、より何でもありになって、よりクイーン度が上がったような印象を受ける。それはネイトのボーカルスタイルがフレディ・マーキュリーに似ていることに由来しているのかもしれないが、とにかくこのアルバムの過剰さはクイーンに通じるものがあるし、ここが評価の分かれ目にもなると思う。というのは、貪欲な音づくりになったぶん、ファーストにあったエレガントさが失われて、少しやりすぎに感じられるところがあるから。ファーストかセカンドかどうしても選ばなくてはいけないと言われたら、まとまりのいいファーストを選ぶ。

とはいえ、クイーンの過剰さを愛する私は、このアルバムの何でもあり感も実際のところけっこう好きだ。シアトリカルなSome Nights Introに始まり、一曲に何曲分の要素を詰め込んだら気が済むのかと言いたくなるSome Nights、ジャネル・モネイをフィーチャーした大ヒット曲We Are Young(全米チャート3週連続1位!)に至るまでの、アルバム冒頭は素晴らしい。特にSome Nightsはボーカル、曲、ギター、アレンジなどすべてにおいてクイーンを感じさせ、ちょっと感動してしまったほど。単に音が似ているだけでなく、「明らかにトゥー・マッチで異形な音なのに、とことんポップ」というクイーンの音楽の一番大切な部分を受け継いでいるのが嬉しい。

                                                                                                  • -


どちらのアルバムでも感じるのは、ネイトの歌の力強さ。純粋な歌の上手さや音域の広さでは、フレディやMIKAのほうが上だけれど、彼にはどんなメロディでも力づくでものにしてしまうガッツがある。そしてそれが楽曲全体、ひいてはバンド全体の勢いに繋がっているのだと思う。とりあえず早くライブが観たいよね。Walking The Dogの♪ナーナーナナッナナーナを合唱するまでは死ねない。