キット・キトリッジ アメリカン・ガール・ミステリー

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リトル・ミス・サンシャイン」や「ゾンビランド」でお馴染みのアビゲイル・ブレスリン主演作!大恐慌時代のアメリカで、新聞記者を目指す11才の女の子キットがある事件解決のために奮闘するお話。もとから期待値は高かったのだが、それを上回る素晴らしさだった。子どもの背丈から世界を綴る児童映画としても、背筋のしゃんと伸びたガール映画としても、好奇心を刺激する冒険映画としても楽しめる、素敵な作品。

すごく好ましく思ったのは、「子どもたちの目線から『厳しい時代』を描く」ということが徹底されている点。大恐慌がもたらした貧困が子どもたちにとってもどれほど切実な問題であったかを、この映画はきっちりと切り取っている。誓いをたてた友達との別れ。差し押さえられる我が家。離れ離れになる家族。不景気の波が、今まで当たり前にあると思っていた子どもたちの生活を浸食していく。その描写は、子ども向け映画といっても決して甘いものじゃない。その上、ホーボーと呼ばれる流れ者による治安悪化を恐れる声が挙がる、という社会不安の広がりについても、子どもたちの目を通して描かれている。

しかもこの映画が素晴らしいのは、そこから更に一歩踏み込み、厳しい状況の中、子どもたちが自分の目でものごとを見た上で「なぜ?」を考え、彼女たちなりの意見や行動を導き出していく姿まできちんと描いていること。キットとその友人たちは、不景気によって職や住まいを失ったホーボーたちの現実を実際に目にすることで、「彼らと自分たちとの間に違いなんてない」、そして彼らが世間から嫌われているのは「過酷な時代においては誰もが悪者を作ろうとし、その矛先が向けられるのは弱者だから」と理解する。子ども向け映画の中で、こうやって悪者を作り上げる構造をちゃんと説明しているあたりも、この映画に信頼が置けるポイントでしょう。そんな中、キットの住む街で盗難事件が起きホーボーに嫌疑がかけられるのだけれど、自分の目で確かめようとするキットは先入観を捨ててまっすぐ真実に辿り着くことができる。こんなふうにさらりと「まずは自分で考えてみよう」と言ってみせるのも、とても誠実。

そして何といっても、アビちゃん演じる「目指せ新聞記者!」なキットが逞しくて素敵。アビちゃんのシャキッとした姿勢がひたむきなキットにぴったりだ。何か情報が入ったときはすかさずメモをとり、必要なときは首からさげたカメラでパチリ。タイプライターを打つ姿も様になっている。きちんと自分の足で情報を集め、自分の言葉で発信する彼女は、小さくてももう立派な記者であり、自立した女性だ。もちろん彼女はまだ11才の女の子でもあり、愛するパパと離れ離れになったり家の全財産が盗まれたりという苦しい状況に頭がいっぱいいっぱいになって、タイプライターに激しく感情をぶつけることもある。けれども、そこでパパの言葉を思い出して、新しい紙をタイプライターにセットし、また一から落ち着いて文章を打ち直すキットは、とても賢くて忍耐強い。このシーンは本作のハイライトと言えると思う。

それから、撮影の美しさにも触れておきたい。撮影監督を務めたのは、「ウォーキング・デッド」などのテレビドラマなどでも活躍しているらしい、デヴィッド・ボイド。彼の手がける作品を観るのは初めてだったが、暖色の心地よさを活かしたやさしい画面作りがとても好みだった。なんとなく、「オー・ブラザー!」や「レディ・キラーズ」におけるディーキンスの暖色使いを想起させるところがあったな*1。ラストシーンを満たす、あのあったかい幸福感は彼の撮影に因るところも大きいのではないかと思う。

*1:要するにそういう系統が好み