TIME/タイム

ガタカ」のアンドリュー・ニコル監督最新作。

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とにかくよく走っていた。それもジャスティン・ティンバーレイクアマンダ・セイフライドオリヴィア・ワイルドといった旬な若手俳優たちが。「走る」という行為は、人間の切迫した状態の表れであるからか、何か人を惹き付ける力を持っているし、映画において走るシーンは印象深いものが多い。だからアンドリュー・ニコルも人間が必死になって走る姿を撮りたかったのだろうか。

そもそも「時間(というか余命)が通貨として用いられる世界」という設定自体、登場人物たちを全力疾走させるためだけに捻り出されたアイディアに思えるし、だとすると「時間がない=余命が短い→一秒も無駄にできない→走る!」と走ることに必然性をもたらした時点でこの映画はほぼできあがっているのかもしれない。要するに「走る」の一点突破でできている映画というか。正直言って、そう思わせるくらい細部の練り込みが足りないし、脇の甘さは笑ってしまうレベルだった。だから出来がいいとは言いがたく、評価が低いのも仕方ないと思う。けれども、若く美しい男女が走る姿ってそれだけで一つの魅力的な画になるし、しかもそれを撮ったのが名手ロジャー・ディーキンスとなれば、私にはそれで十分だったりする。

ディーキンスの撮影は相変わらず冴えていた。この人の色調の揃え方と光のバランスの取り方は天才的だと思う。スクリーンの向こう側がぱーっと開けて風景が広がっていく、そんな画作りをしている。中でも白眉は冷たい美しさを湛えた夜の風景で、暗い海に光る緑色の表示がきれいだった。

夜の海でスイミングといえば「ガタカ」にもそういうシーンがあったけど、壮大でロマンチックなモチーフだよね。基本的にアンドリュー・ニコルという人はそういうモチーフを好むロマンチストなんだと思うけれど、今回は彼のロマンティシズムが映画の骨組みがきちんと完成していない状態で暴走してしまったんじゃないだろうか。細かい点を詰めきれていないのに発進するから物語が上滑りしてしまう。それゆえの中身の薄さは、誰も彼もが25才の見た目をしているためか現実味のない登場人物たちと相まって、もはやある意味「この映画独特」と言えるプラスチックな世界観を作り出しているように思う。その無機質な作り物感は陳腐でもあるが、逆にちょっと楽しくもあった。

人物の彫り込みも十分ではなく、主演のジャスティンとアマンダのカップルは話が進むほどに薄っぺらになっていくような始末だったけれど、そんな中唯一気を吐いていたのがキリアン・マーフィ。大衆から忌み嫌われる体制側の仕事を矜持を持って務めるレオンをキリリと演じていた。しかし、一人だけ明らかに25才に見えなかったり、他のキャストが皆底の浅いキャラクターを絶妙なペラペラ感で演じていたりする(このペラペラ感って本作の大きな欠点だけど、私は嫌いじゃないんだよなー、ニヤニヤしてしまう)ので、唯一まっとうな彼は逆に浮いてしまうといか、損な役回りに見えてしまう。これはもったいなかった。そこで本作の前日譚としてレオンのスピンオフをお願いしたい。そうじゃないと伏線が回収しきれないし。その時はきちんと脚本を練り、キャラクターを作り込み、重要なバトルはエキサイティングに撮ってほしい(バトルシーンのつまらなさにはさすがにげんなりしたよ!)。アンドリュー・ニコル監督、次はこの企画でいかがでしょうか。