シャネル&ストラヴィンスキー

公開当時から評判がよかったのでなんとなく気になっていた作品。黒い欲望を刺激する美しく恐ろしい映画だった。私にはちょっと官能が強すぎる気もしたけど。

シャネル&ストラヴィンスキー [DVD]

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有名ファッションブランド、シャネルの創設者ココ・シャネルと20世紀を代表する作曲家イゴール・ストラヴィンスキーの秘められた恋を描く作品だが、私は不勉強ゆえどちらのこともよく知らなくて、この二人であることのおもしろみはいまいちわからなかったりする。しかし、どちらも才能溢れるアーティスト。その二つの才能がほんの一時交わる瞬間の物語というのには惹かれるものがある。

シャネルを描いた作品であるのでやはり美意識は高く、万華鏡を模したようなオープニングの美しさからしてうっとり。もちろんファッションもたいへんにきまっているのだが、印象的だったのはシャネルのお屋敷。各部屋ごとにシックな内装が施されていて(モノクロの部屋のエレガントさ!)、彼女の嗜好や生き方がそこに表れているように感じた。自分の力で生計を立て、ほしいものを手に入れる自立した女性。部屋の内装は多くの人に好まれる暖色ではなく、彼女の一番好きな色だという黒を中心にまとめている。この「黒」という色がまた効果的に使われていていいんだよね。この映画の暗黒っぷりを視覚化しているようで。

何せその田舎のお屋敷が物語の舞台であるというのが恐ろしくってゾクゾク。都会の喧騒から隔絶された、周囲には誰もいない場所。揺れるブランコ、バスタブの水面に浮かぶ顔、たくさんの鏡像など、屋敷の中のあらゆるものがホラー的に撮られていて、背筋に冷たい水が伝うような感覚を味わった。この「背筋に水が伝う感覚」は恐怖でもあり、官能でもあり、この二つは本質的に繋がっているのだと思う。元々は恐怖を駆り立てる演出だけれど、どこかで官能がそれを上回る。その表裏一体のかんじが天才二人が触れあう瞬間の危うさをもたらしていた。

マッツ・ミケルセンの神経質そうなストラヴィンスキーもよかったけれど、シャネルを演じたアナ・ムグラリスの微笑がとにかく印象深い。だって物語はすべてシャネル様のお屋敷、その掌中で起こっていたんだものね。