遅まきながら今年初の新譜感想

「新譜」って、今を基準にしてどのへんまで遡ってリリースされたものを指すんでしょう。「今年リリースのアルバム」であれば、今日のエントリの中であてはまるのは一枚だけど、まあいいか。

Born to Die/Lana Del Rey

Born to Die

Born to Die

一週間前までは「いい曲もあるけど、ものすごく好みってわけではないからアルバム買うかどうか微妙だな」くらいの認識だったLana Del Rey、ここにきて一気にハマってしまいました。昨年から欧米メディアが大プッシュしていた女性シンガーによるデビューアルバム。

自ら「ギャングスタ界のナンシー・シナトラ」と名乗り、自身の音楽を「ハリウッド・サッドコア」と表現するLana Del Reyは、そうした言葉通り往年のアメリカン・ポップ・カルチャーのイメージを音楽・映像(彼女はMVの監督も自分で務める)通して全身に纏っているのだけれど、その気怠い歌声は「そうしたアメリカの夢、"ポップ"というものは死んでしまったのよ」と言っているように聴こえ、その「死」がもたらす退廃的な美こそが彼女の表現の核なのだろうと思う。とは言っても、まだ歌詞をちゃんと読んでいないから彼女の持つコンセプトを理解しきってはいないのだが、先述した通り彼女は自分自身と自ら手がけた映像によって視覚的にも「アメリカのポップ」のイメージをノスタルジーとともに打ち出しているから、その表現したいことは言葉(歌詞・発言)を通していなくともわかる。そんな彼女のヴィジョンの明確さ、まずはそこに私はとても惹かれる。「これがやりたい!」がはっきりしていて且つそれを実現させている人/ものがすごく好きなんだよな。最近『グレート・ギャツビー』を読んだり『J・エドガー』を観たりして「アメリカン・ドリーム」に興味を持ち始めたってことも大いに関係しているのだが。

音楽そのものはオールディーズを基調としているようでいて、打ち込みのビートをベースにストリングスが絶妙のバランスで配置されたまったく無駄のないモダンなものに仕上がっている。そこに乗っかるLana嬢の歌は時にスモーキーで儚げで、時にラッパーのように多弁。先日のSaturday Night Liveでのパフォーマンスは「ぼーっと突っ立っていて暗い」と酷評されてしまったようだけど、音源を聴く限りは曲ごとに様々な表情を見せてくれていて、大人の女性の落ち着きと女の子のあちこち跳ね回る足どりの軽さの両方を感じる。

隙のないプロダクションに関しては「オーバープロデュース」「完成されすぎ」との声もあるようだけれど、決して大袈裟なサウンドにはなっていなくて、むしろLanaの歌が活かされるようぱっと聴いたときの響き自体はシンプルになるようデザインされている(それが「完成されすぎ」の所以なのかもしれないけれど)。死や喪失の美を描きつつも、それを過剰には飾り立てていない。確かに彼女の音楽は壮大に聴こえるところもあるけれど、必要以上に華美ではないのだ。そのエレガントさがすごくいい。

デビュー前からあまりに話題になってしまったが故に多くのバッシングも受けていて、純粋に表現そのものを評価してもらうことは難しくなっているし、彼女自身が「次のアルバムは作らないかも」と発言しているから、これからどうなるかは全然わからないけれど、このアルバムは「2012年最注目の新人」ということを抜きにしても楽しく聴ける。一回はライブも観てみたいな。


Never Trust A Happy Song/Grouplove

Never Trust a Happy Song

Never Trust a Happy Song

Foster the Peopleを引き合いに出されたりしているようなので、「じゃあちゃんと聴いてみようか」と遅ればせながらでアルバム購入。ロサンゼルス出身の5人組のファースト。

確かにFTPに通じるようなキャッチーなメロディと誰からも愛されるような親しみやすいポップセンスがある。究極にポップでありつつどこかひねくれたかんじがする(こんだけ楽しそうな音楽で「ハッピーソングなんて信じない」というタイトル)のも、こんがらがったティーンの音楽らしくて好み。ただ、FTPが職人気質のミュージシャン集団で大人の立場からティーンの味方に立った音楽を作っているとすると、こちらはティーンの視座から歌っているような若さと青さが弾ける感覚がある。まあこちらも歌詞は読んでいないし、メンバーの年齢や経歴も知らないから、あくまで聴いてみた印象に過ぎないのだが。

ボーカルの時おり叫ぶようなセンチメンタルな歌唱や男女混声も、そういった若い印象を抱く理由かもしれない。数人の若者が集まって花火なり何なりをしつつ、男の子連中はわけもなくわーっと叫んでみたりするんだけど、ああ、でも肝心な君にはすぐそこにいるのに声が届いていない……ってな青春の1ページを感じる。ロスキャンなんかもそうだけど、エモい男の子ボーカルと落ち着いた女の子ボーカルの男女混声はそれだけで、なかなかどうして交わらない、理解しあえないボーイズ&ガールズたちを描き出しているね。

リフを奏でるギターのそっけない響きが好み。音色の美しさ以上にリズミカルさを曲に与えていて楽しい。コーラスは高揚感たっぷりでちょっぴり暑苦しく、先述した青春の1ページ的なイメージも含めて、夏にぴったりなアルバムだと思うので、出演が決まったサマソニでのライブが期待できる。屋内ステージになりそうな気もするけれど。