ブルーバレンタイン

昨年のベストにもよく選ばれていた一作をようやく観賞。(けっこう豪快にネタバレしてます)

ブルーバレンタイン [DVD]

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公開当時、冷えきった夫婦関係や男女のすれ違い等があまりにリアルに描かれているため、「お腹が痛くなる」「思い出すだけで辛い」といったにがーい感想を多く見かけた本作だけど、まあそんな大人な経験はしたことがない私なら少なくとも「身に覚えがあって辛い」ってことはないでしょと変な安心をして観てみたのだが……いやーこれ、主人公二人の娘の視点で観てしまって、別の意味で辛かった。なんでパパとママが喧嘩してるかわかんないけど、とりあえず悲しくて泣くっていうあのかんじ、よくわかるよ……。

二人がいれば何だって乗り越えられる――そんなふうに思えた「あの頃」と、結婚から幾年か経ち二人でいると何事も噛み合わなくなってしまった「現在」。同じ一組の男女の、しかしまったく状況の異なる二つの物語が、終始淡々と交互に描かれていく。幸せな過去の中で、ディーンの歌とギターにあわせてステップを踏むシンディ、二人のキラキラした笑顔、そしてキス。それが今では、夫は「こんなにも家族を愛しているのに」と思う一方、妻はそんな夫に苛立ち、気づけば喧嘩が始まる。二人とも見た目からしてずいぶん変わってしまった。引き締まった身体だったディーンはいつのまにやら生え際が薄くなり、ミニスカートからピチピチした太ももをさらけ出していたシンディのお腹まわりは今ではタプタプになっている。

この一組のカップルの過去と現在を見事に演じわけたのが、ライアン・ゴズリングミシェル・ウィリアムズ。やはりこの二人の演技あってこその映画なんだなあというのが、平凡ながら真っ先に浮かんだ感想だった。「ブロークバック・マウンテン」なんかでも体を張った熱演を見せてきたミシェル・ウィリアムズは、やはり今回も素晴らしい泣き崩れを披露してくれていたし、役作りのため体重を増量したという体もリアルにたるんでいていい。一方、ライアン・ゴズリングのほうはこれまで出演作をまったく観ていてなくて、その魅力がいまいちわからなかったんだけど(最近やたらと人気があるよね)、本作を観てこの人は喋り方に色気があるんだねと理解した。纏っている空気に、抗いがたい何かがあるというか。同時に、うっすらハゲててダサいメガネをかけた、だらしないおっさんも演じ分けられるのだから、器用だなとも思う。とりあえず「ラブ・アゲイン」と「ラースと、その彼女」を観よう。

細かいテクニックや演出についてはよくわからないのだが、なんとなく印象として、過去シーンと現在シーンは少し撮り方が違うように思った。過去シーンは手持ちカメラで映像に臨場感を出し、二人の心の高まりを躍動感とともに。そして現在シーンは固定カメラで「もうどうしようもない現実」をじっくりじっくりと見せつける。派手な技は使っていないのだけれど、焦らず丁寧に主演二人の演技をたっぷりと見せる、そんな演出だった。二人を遠目から撮影しているところなんかは、演技への信頼が窺えるというものだよね。一番好きなシーンは二人がシンディの働く病院で喧嘩する場面で、口論するディーンとシンディの姿がガラスに映りこんで重なっているところ。ああいうシンプルな工夫がいい。

不思議、というか感覚的によくわからなかったのは、一組のカップルの関係の破綻を7月4日のアメリカ独立記念日に重ねていること。普通に考えたら、あれがディーンとシンディ、二人にとっても独立と新たなスタートの日なのだということになるんだろうけれど、アメリカという国の最も重要な、最も基礎的な概念をここに当ててくるというのはもっと相当なことなのではと思うのだ。まあ考えすぎ、深読みしすぎかもしれないが、単に二人の独立というだけでは終わらない「アメリカ的なるもの」がそこにはあるような気がする。