スリーデイズ

おもしろかった。けど、長かったな。

08年のフランス映画「すべて彼女のために」のリメイク(このリメイク元は未見)。監督はポール・ハギス、主演はラッセル・クロウ。無実の罪で逮捕された妻を救うべく、ラッセル熊さんが脱獄を計画するよ!脱獄のプロ、リーアム・ニーソンにアドバイスを貰うよ!という話(こう書くとリーアムの出番多そうだけど出演時間は数分だよ)。ラッセル無双の脱獄アクションかと思いきや、ごく平凡な男が妻への愛のためにすべてを賭ける夫婦愛ものの趣が強かった。


いや、これ長かったです。130分以上あったのかな。脱獄のハラハラドキドキに重きを置いたサスペンス映画であれば、あと20分短いほうがよかった。事前に上映時間を調べてなかったこともあって(普段は調べることが多いんだけど)、ラスト10分くらいは「これいつまで続くのだろうか……」と思ってしまった。「つまらない/おもしろいより」も、まず真っ先に「長い」という感想が出てしまうのがもったいないところ。

ポール・ハギス関連の作品は脚本を手がけた「ミリオンダラー・ベイビー」しか観たことがなかったのだが、本作を観る限りは、律儀に仕事をする人だなあという印象。何かをバサッと省略してしまうことがなくて、どの要素、時間もだいたい均質に描かれる。実際、前半はオリジナルの忠実なリメイクになっているらしく、そこへ更に新たなエピソード等が加えられているようなので、上映時間が長くなってしまったのはそれが理由だろう。でも、もうちょい省くところは省いて掘り下げるところは掘り下げて、時間を削ってほしかった。(脱獄の)3年前、3ヶ月前、3日前という時間進行もいいのだけど、時間の流れる速さがあまり変わらないので、3日前で加速がついていかないというか。前半は手際よくまとめて、3日前からじっくり見たい。

とはいえ、その130分が間延びしているのかというとそんなことはなく、映像や主人公の心理の緩急で緊張感を出しているのがよかった。例えば、脱獄の資金が足りなくなり銀行強盗をしようとするが……という場面は、いくつかのカットの切り替えとラッセル・クロウの表情で、一線を越えるか否かのギリギリ具合を見事に表現している。

冒頭のシーンから巻き戻って話が始まる構成もよい(最近この構成の映画が多いらしい、確かに「ミケランジェロの暗号」はそうだった)。まず最初に主人公が陥った状況を見せて観客の関心を惹き付けておいて、それから「ごく普通の、幸せな家庭を築いていた男がなぜこのような状況に陥ったのか、そこに至るまでに何があったのか」を描いていく。コインやボタンなどの小物づかいもうまかったし、細部まできっちりと作られている。

主演のラッセル・クロウはスターのオーラを消して、しっかり「普通のおっさん」に見えるようにしていて流石。しかし彼の場合、本当にすごいのは、普通のおっさんなのに脱獄という無茶ができてしまえるようにも見えることだと思う。この二つを共存させられる人はそういない。脱獄して逃げている途中、警察に服装の特徴を把握されないように何回もジャージを着替えるのだけど、それがまるで「ラッセル熊さんのジャージファッションショー」みたいで可笑しかった。色とりどりのジャージに身を包む熊のようなおじさん……。逆に妻を演じたエリザベス・バンクスは、脱獄後に変身する(髪型とか化粧とか)わけでもなく、収監中も収監前とそれほど変化がないので、ちょっと残念だった。リーアムは出番が短いながら完璧な役の作り込み。顔の傷がイカす。

その他の脇役たちも皆よかったのだが(かっこよすぎる主人公のお父さん、やたらと渋い刑事たち、など)、あくまで「妻を愛し信じる思いだけで一線を越えてしまう男」の話なので主人公の描写がたいへん濃く、彼らの活躍の場はそれほど与えられていない。そのこと自体は作品の方向を考えれば当然なのだけれど、じゃあ「なぜ主人公はそこまで妻を信じられるのか」の描写が十分になされているかというと、主人公を描くのに割いた時間が多いわりにはちょっと薄いかなと思う。なぜ妻を信じられるのか、それは妻だから、愛しているからだ、と言うだけじゃ弱い気がする。というか、じゃあその愛ってどんなものなのというところをもっともっと見たかった。


と、書いてみると、けっこう注文が多くなってしまった。おもしろかったんだけどもね。