デイブレイカー

去年オススメをいただきながらも見逃した作品。事前に聞いていた通り、確かにこれは「ガタカ」×ヴァンパイアだ!

(↓後ろの看板は第一次大戦時の入隊勧誘ポスターを模したもの!)

舞台は2019年の近未来。世界はヴァンパイアに支配され、食糧源である人間は絶滅寸前。しかし人間が絶滅すれば、ヴァンパイアも生きていけない。ヴァンパイアたちは血に飢えはじめ、代替血液の早急な開発が求められるようになる――っていう設定からしてなかなか独創的でおもしろいんだけど、それだけじゃない良さがいろいろあって楽しかった。まあツッコミどころも少なくないが、簡潔に言って私好み。

まず、「ヴァンパイアに支配される近未来」というユニークな世界観の構築が見事。ヴァンパイアは日光を浴びると燃えて死んでしまうので、自動車は日光をシャットアウトする日中走行用の機能がついているとか、地上に出ないで済むよう地下道が整備されているとか、ディテールの凝りようが楽しい。いわゆる「ヴァンパイア」の特徴、ルールを踏まえつつ、そこに新たなアイディアがたくさん加えられていて、「もし未来がこんな世界になっていたら」が細部までしっかり映像化されている。血に飢えたヴァンパイアたちがコーヒーショップ(血入りのコーヒーを売っている)で暴徒化する場面とか普通にゾッとする。近未来が舞台だというのに使われる武器は主にボウガンというちっちゃなこだわりもいいし、終始ニヤニヤしながら観てしまった。

ただ、着想がおもしろく世界観の構築は頑張っているけれど物語がそれについてきていないというのは、好みの映画といってもどうしたって感じてしまう。まあ、正直ちょっと笑ってしまうところがけっこうあったんだ。特に後半の展開はいささか強引さが目立ち、ほころびができているのを無視して勢いに任せてしまいすぎだと思う(その勢いでねじ伏せてしまえているわけでもあるのだが)。とにかくアイディアはおもしろいのに脚本の練り不足がいろいろ目についてしまうのだ。しかしまあ、そうした粗は映画にノれてしまえば気にならないとしても、イーサン・ホーク演じる主人公とマイケル・ドーマン(初めて見たけどかわいい顔)演じる弟の関係についてはもっと描写してほしかった。この二人の関係性は「ガタカ」のイーサンとジュードの関係性を思わせるわけで、つまりそこを深く描くことはものすごく重要なことなわけで、それがあればこそクライマックスで燃えるわけで……と考えれば考えるほど「もったいない」と思わせる点である。

でも、それでも、「この映画、断固支持!」と言いたくなるのは、作り手の「これが見せたいんだ!」の意志がはっきりしていて、なおかつそれを実現しているからなんだと思う。しかも、「これが見せたい!」の理念のもと緻密に計算して映画を組み立てていくのではなく、「これが見せたい!」の理念が物語を半ば置いてきぼりにしながら暴走していくのがおもしろい。上述した暴徒化するヴァンパイアや、ヴァンパイアが理性を失い更に怪物化したサブサイダーを処刑するシーン、そしてクライマックスの血みどろの光景は圧巻だった。地獄絵図ってあるけど、まさにあれを映像化したかんじ。やっぱりスクリーン上でしか見られない景色を見せてくれる映画が私はすごく好きだ。

カテゴリ分けするときには「B級SF」のラベルをつけられるような作品だけど、それも作り手は意識的にやっているのではないかなという気がして、というかB級感なしには獲得し得ない色気や艶もあると思っていて、この映画はそういう艶をしっかり身につけていると思う。それと、かなり激しいスプラッタ描写があって血がドバドバ出るんだけど、あのキンと冷えたルックに赤黒い血がぐちゃぐちゃなるのがたいへんエロティックで、なんかもうそれだけでだいぶ点数は甘くなってしまうのも確かなのよね。

デイブレイカー [Blu-ray]

デイブレイカー [Blu-ray]

これはブルーレイで観てよかったと思った作品ですな。ヴィジュアルにすごくこだわってるから。そしてプレイヤーをテレビと同じアクオスのブルーレイにしたら字幕が出ない問題はあっさり解決したのであった。