Suck It And See/Arctic Monkeys
Arctic Monkeysの新作「Suck It And See」を買いました。聴きました。傑作でした。
- アーティスト: Arctic Monkeys アークティックモンキーズ
- 出版社/メーカー: Hostess Entertainmen
- 発売日: 2011/05/31
- メディア: CD
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例えば4曲目のThe Hellcat Spangled Shalalala。
♪シャラララ〜という甘く柔らかいコーラスが中毒性ある。この曲にはキンクスをはじめとする英国バンドのロマンティシズムを感じます。これまでも様々な英国バンドからの影響が聞こえたけれど、本作ではその影響が単に音の面だけでなく、精神性の面でも強く表れてきたなあという印象。アークティックもやはり英国(文化)を表象するバンドなんですね。キンクスやスミスが持っていたものを彼らも持ってる。今回のアルバムはこれまでで一番英国的。
アークティックがキンクスの地平に近いところにやってきたってことが素直に嬉しいと同時に、彼らがオアシス的アンセムを獲得する方向にはまったくいっていないのがおもしろい。オアシスもイギリスを象徴するようなバンドなんだけど、キンクスの流れとは違うんだよね。というか、私はオアシスはほんとはけっこう変則的な英国バンドだと思っているんだけど。
ちなみにうちのママンは「西海岸を感じた」って言ってました。メトロノミーの新譜もウェストコーストサウンドを採り入れてたし、これは何か一つの流れがあるのか……!?と思ったんだが、西海岸ブームはけっこう前からのことでしたね。でもそれってこれまではUSインディーでの話だったんよね。英国バンドにも西海岸の流れがくるのか。
先行的に発表された2曲、Brick By BrickとDon't Sit Down~はアルバム購入前に聴いたときにはかなり違和感があった、というか正直まったく好きじゃなかったんだけど、アルバムの中で聴くとあるべきところにあるべき歌として鳴ってる。非常にポップな曲が多い中でも浮くことなく、ゴリゴリとハードなサウンドがアルバム全体をタイトに締め上げています。
今回のアルバムは、ファーストの頃のような「とりあえず何か試してみよう」の精神で、さっと曲を書いてばっと一発録りしてというかんじで作っていったのだそう。つまり精神は原点に立ち帰った、と。しかし精神的な原点回帰を経て、さらにやっていることは基本的には昔から変わらないのに、できあがった音はファーストとはまったく違うものになっているということから、やっぱり彼らは進んで戻ってはしていなくて、常に一歩進んでいるということがわかります。ただ、前作ではその一歩がかなり考えた一歩だった。でも今回は非常に伸び伸びとした一歩になってる。
アルバム通して、アレックスのボーカルがほんとに素晴らしくてクラクラする。この人の声はやっぱり特別です。
無味乾燥としたアートワークを見て思うのは、ここにはもう半径数メートルのリアルを歌うストーリーテラーはいないということ。アレックス自身、歌詞は以前より内在的になって、何かを見て感じた感情を歌うようにしていると言ってる。もう物語はないわけです。
ファーストの頃の青く疾走する感覚とかストーリーテリングを求めるのはわかるし、私もそういうところがあるけど、実際にできあがってきたものが、ファーストとはまったく違っても、素晴らしいクオリティでバンドの成長を感じさせるものだったら、やっぱりそれはちゃんと評価すべきだと思います。ファーストと比べるという評価軸はもう成り立たないから。アークティックはいい成長してる。やっぱりゴリゴリした音を鳴らしてもまったくマッチョじゃないのがいいね。青さを抜いて、まったく汗臭くなることなく、ロマンティックなポップミュージックに変容したってかなりすごいことだと思います。私はこの路線を支持します。
最後に私がこのアルバムで一番好きな曲を。
8曲目のReckless Serenadeです。ポップでメロディアスなベースが目立つ曲が大好物なので。アレックスのシンプルな歌唱、キラキラしたギターもいいなあ。
追記:貼り付けたビデオがちょっと変ですね。ごめんなさい。実際の曲はこんなんじゃないです、似てるけど。