レポメン(エリック・ガルシア)

昨年の映画ランキングで5位に選んだ「レポゼッション・メン」の原作。作者のエリック・ガルシアは「レポゼッション・メン」の脚本も担当。

アメリカ人作家によるアメリカを舞台にした作品なのだけれど、英国っぽい皮肉めいた言い回しが多くて、英国文化かぶれの人間としてはたいへん嬉しかった。読了までおよそ10日間かかったが、毎日お気に入りのフレーズが必ず一つ以上は見つかった。例えば、

人より頭蓋骨がでかく、脳が小さい。こういう軍事的な緻密さがあってこそ、おれたちはアフリカの戦いに勝利したのだ。

でかい頭蓋骨に小さな脳みそはうちの界隈ではふつうのことで、たぶん水のせいじゃないだろうか。

とか。自虐的で、とにかく何か一言言わないと気がすまないところが、英国的。灰色のユーモアセンス。

非常によく練られたストーリーテリングにも感服した。次々と場面が飛びながらも、最後に物語は一つに収斂されていく。映画版のジュード・ロウによるモノローグ進行もよかったが、こちらのタイプライターで主人公が事の顛末を綴るという形式での進行もおもしろい。映画版よりも主人公の過去エピソードが多く(それを主人公自身が語っているというのが重要)、主人公の孤独や満たされなさが浮き彫りになっている。主人公は何か一つ、自分の心にぴたりとはまるものがほしかったのだと思う。心臓を失い手に入れた心のすきまを埋めてくれるものが。それを踏まえてラストを読むと、なんとも感動的。

レポメン (新潮文庫)

レポメン (新潮文庫)