Angles/The Strokes

アングルズ

アングルズ

先行曲Under Cover Of Darknessが好みど真ん中の曲だったので、めちゃくちゃ期待してたアルバムなんだけど、これは正直……。まだ一回しか聴いてないけど、私的にはけっこうキツかった。なんかいろいろやりすぎてしまってるかんじで、あのスマートなストロークスじゃない。先行曲とのギャップもあって、ちょっと本気でガクッときた。むしろ先行曲はなんであんなに瑞々しくて素晴らしい曲になったんだというくらい。

つかみは悪くなかった。1曲目Machu Picchu(ストロークス流レゲエナンバーという新機軸!)〜2曲目Under Cover Of Darknessの流れを聴く限り、良作の予感がする。しかし、4曲目あたりから迷走、試行錯誤の痕が見え始め、どんどんしんどくなった。単純に言うと、プロダクションに凝りすぎて曲本来の魅力が消されていると思う。いろいろいじりすぎて、どこに重点を置きたいのかよくわからなくなってる。シンセサイザーや厚いコーラスをフィーチャーするのは全然構わないけど、なんかもうちょい使い方があるだろというか、普通に過剰なんだよなあ。あの抑制をきかせた完璧なフォルムで静かに疾走していたファーストの音像とは大違い。やはりストロークスといえば、ジュリアンの微熱な歌同様、「抑制」こそが一番の魅力でしょう。あの削ぎ落とされた完璧なデザインにバンドの知性は宿っていたはず。だから、バンドメンバー各人の美学や嗜好に塗り固められたようなゴテゴテした本作の音は、ストロークスの魅力を半減させているとしか思えない。先行曲を聴いてファーストと同じ抑制の美を感じたから期待してただけに、なんだかなあ。

それにしても、あのファーストが出てから今年でもう10年になるんだよ。それなのに未だにあのアルバムの黄金率を求めているのかな、私達は。自分がいったい何をストロークスに求めていたのかよくわからなくなる。ファースト至上主義の人間ではないんだけど。

ただまあ、本作がいろいろやりすぎな音になってしまったのは、紆余曲折を経た制作プロセスのせいでもあると思う。一旦ほぼ完成までいった音源を潰して、セルフプロデュースに切り替え録り直したらしいので。相当時間をかけ、相当いじったのだろう。しかもジュリアンはバンドのレコーディングに立ち合わず後からボーカルを入れたそうで、「そうするのが最善の方法だった」というようなことを言ってる。最善の方法って、そんなに無理してやる必要はないんじゃないか。そこまでしなきゃアルバム作れないくらいなのか。この制作プロセスを聞いてなんだか少し悲しくなる。

でも全部が全部悪いってわけじゃなくて、いい曲もあった。8曲目Gratisfactionはなかなか好き。これはベタベタな曲で、ストロークスらしいっていうのではないけど、とってもメロディアスなのがよいと思う。彼らの大きな魅力の一つはポップなメロディーだから。やっぱりストロークスは、良質なメロディーとジュリアンの声を最大限活かしつつ、シンプルかつ最良のアンサンブルを聴かせてくれるバンドであってほしいのです。