ぼくたちの奉仕活動

vertigoさんにお借りしたDVDスルーの良作3選、ラストの1本は「ぼくたちの奉仕活動」です。出演はポール・ラッドクリストファー・ミンツ=プラッセなど。彼らが出ているような最近のアメリカンコメディ(「スーパーバッド」とか「ノックトアップ」とか)って今まで全然観たことがなくて、どんなもんじゃいという気持ちで観たのだが、これは素晴らしかった!予想以上におもしろかったし、コメディとしてだけでなく成長物語としても嫌味なく爽やかに仕上がっているところがいい。

公務執行妨害や器物損壊などの罪を犯してしまった男二人が、裁判所からの命令で奉仕活動として問題児二人の面倒をみるはめになる、というストーリー。いわゆる、大人になりきれない男と問題を抱える子供の交流と成長という、プロットとしてはよくあるものなのだが、子供たちの扱い方に嫌らしいかんじがないのに好感を持つ。それは女性の描き方についても同様で、女性と子供を見る目がとてもフェアなのが素敵だ。女で、しかも最近まで子供として扱われていた人間(まだまだガキんちょだけど)としては、こういう部分がやはり気になる。「子供」を利用しているかんじがないというか、コメディだから大げさで下品ではあるんだけど、ちゃんと人間同士の「交流」が描かれているように思う。「子供は天使」みたいな説教臭さを持ち込まず、一方で「子供はちゃんと『自分』を持っていて、自らを振り返るべきは大人」という構図が自然と描けているのがいい。また主人公と彼女の関係も対等で、最後に主人公がちゃんと彼女に向き合っているのが何より素敵。

ところで、昨日観た「ヒア アフター」でもそう思ったけど、アメリカ映画で男性が主人公のものはたいてい少なからず「青春映画」の要素を含んでいると思う。この作品も、日常生活の不満は結婚さえすれば解決すると勘違いしている男が子供との交流を経て何かを見つける、という「遅くきた青春」ものだと言える。青春というのは、大人になる儀式、過程だと思う。一人の市民としてのスタート地点に立つまでの物語のこと。あるいは差し出せなかった手を差し出すようになること。そのとき女の子にちゃんと手を差し出せるようになる青春映画が私は好きだ。アメリカ白人男性の中にある強者/弱者の意識を越えて、最後は一人の青年として一人の女性と向き合う、こういう映画が私はすごく好きなのだ。「ファイト・クラブ」然り、「ソーシャル・ネットワーク」然り。さらにこの作品に関していえば、最初から女の子への視線は誠実だったし、女と同様に弱者の代表格のような子供に対してもフェアな姿勢をとっている。この作品の素敵なところはそういうところだ。だから下品でも嫌なかんじはしないのだと思う。

それにしてもキャストがみんな役にハマりすぎで笑った。特にクリストファー・ミンツ=プラッセ。ファンタジーの世界に生き、中世のような格好をして仲間達と戦ごっこのようなことをしている男の子役。彼はあと5年くらいこういう非リア充の極みみたいな役をやってほしい!でも普通にスーツとか着るとかっこいいんだよな。それがまた憎い。

問題児二人の設定はコメディらしく突飛であるが、ディテールは非常にしっかりしているのもいい。前半に出てくる小ネタをクライマックスで大きく使っているあたりがうまかった。序盤から雰囲気のいい作品でそのままほっこり終わってもよかったのだが、そうではなく、ラストでしっかり大きな笑いをとってくるところが素晴らしい。大まじめにバカなことをやるのが、やっぱり一番おもしろいのだよなあ。バトロワシーンでの彼らの格好が、微妙にしょぼくて手作り感があるのがいい。

今回vertigoさんにお借りした作品は全てDVDスルーにはもったいない佳作でありました。かといってこういう小品映画はなかなか劇場公開に踏み切るのが難しいだろうなあとも思います。だからせめてできることといったら、DVDスルー作品を観賞したときはしっかり感想を書くことではないかな。ということで、3作ともとてもオススメです。

※ブラックの男の子がポール・ラッドに対して「このベン・アフレックがよ」というシーンがあって、あれは白人を揶揄した言葉だと思うのだが、やはりベンアフはアメリカ白人男性の典型ってかんじなのでしょうか。よくわからんけど笑ってしまった。