ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!

エドガー・ライト監督、サイモン・ペグ×ニック・フロストのコンビ主演「ホット・ファズ」をようやく観ました。同監督、同コンビ主演で、映画ファンに大大大人気の(イメージがある)「ショーン・オブ・ザ・デッド」にそこまでノレなかった(おもしろかったけど、みんなが言うほどでは……という中途半端な印象)人間としては、若干手を出しにくかった作品なんだけど……いやあ、絶賛評にも大納得の超傑作でした。おもしろい!単に「笑える」「バカバカしいネタが多い」って意味でのおもしろさじゃなく、設定、キャラクター造形、脚本、小ネタ、伏線の回収の仕方、音楽、編集など全部の要素をひっくるめて「映画作品」として丸ごと楽しめるおもしろさ。very interestingでした。

とにかくエドガー・ライトとサイモン・ペグによる脚本が素晴らしい。非常に巧みなつくり。くだらないネタを散りばめつつも、無計画に投下しているわけじゃなくて、ツボをしっかり押さえている。また前半に出てくる小さなしょーもないネタまでも終盤でしっかり回収する様が見事。出したコマは小さくてもすべて使いきります。「ファシスト」「鬼ばばあ」のくだりは、そりゃあ笑うでしょう。

アクションコメディを主軸にしつつもサスペンスドラマとしての側面もあり、どちらかのパートが強すぎたり、あるいは弱すぎたりすることなく、お互いにいい作用をしあっている。二つのパートがいいバランスで交わりながら作品をおもしろくしていく方向に働いています。サスペンスパートは、言ってみればメインであるコメディパートをストーリー的に支えるサポートの役割をしているわけだけど、「一応話の筋通しておきますか」レベルのぬるいものには終わっていなくて、ちゃんとサスペンスとしての「怖さ」があるんだよね。都会と田舎の温度差とか保守的な田舎の住民とか土地の価格の問題とか、そういうシリアスな要素もしっかり捌いて緊張感を持たせているし、一連の事件の真相には薄ら寒い恐怖を感じた。エドガー・ライトらしい抜かりないグロ描写もそこで効いてくる。いやあ、うまい。大笑いしたと同時に唸った作品でもあります。はちゃめちゃなコメディをやるにもベースは整えておかなくちゃいけない。この作品はそこがすごくしっかりしてます。

で、舞台は整ったと言わんばかりに熱いアクションが炸裂するラスト30分の素晴らしさといったら!サイモン・ペグが馬に乗ってやってくるあたりで、「こりゃあすげえもんが見られるぞ……」っていう予感がビシバシしてくるので最高。エドガー・ライトの映画愛がほとばしっています。そうなんだ、この映画を駆動させるエンジンは映画愛にほかならないんだ。それはこのラスト30分の熱量から自然と伝わってくるんだ。ああ、それを思うと、この作品が映画ファンから溺愛されている理由なんて考えるまでもないんだね。私ももっと早く出会っておけばよかった。

しかし映画というのは、愛さえあれば作れてしまうものではなくて、そこにはやっぱり工夫や技量というものが必要になってくる。かといって、技巧にばかり凝るとおもしろみがなくなるし、何のために映画撮ってんの?という根源的な問題に戻ってきてしまう。その点、この作品は「愛」と「巧さ」、その二者のバランスがすごくいい。登場人物達もみな個性的でありつつ作品の一要素として融和しながら機能しているし、どの点においてもバランス感覚が絶妙な作品なのだ。コメディパートのサポートであるサスペンスパートに比重が傾きすぎてコメディとしてぬるくなる、とかそういうことが全然ない。すべての要素がユニークでありながらお互いに邪魔しあわず、作品をよい方向へ動かす歯車として機能するように作っていく、というのはむちゃくちゃ難しいことだと思う。それができてしまうエドガー・ライトはすごいバランス感覚の持ち主だし、それってつまり才能あるってことじゃね?と、私は今さら気づいたのであった。

主演のサイモン・ペグとニック・フロストのコンビも最高であった。実は「ショーン〜」ではニック・フロスト演じるショーンの親友に若干めんどくささを感じてしまったのだが、この作品でのニック・フロストは不覚にもかわいいと思った。二人の生み出す「空気」がまたいいんだね。二人でやっちまおうぜってお互いに目を合わすかんじがね。

編集も音楽もかっこよくて、本当に素晴らしい作品であった。もう謝りたくなるくらい今さらだが、エドガー・ライトってすごい監督ですね。スコット・ピルグリムが俄然楽しみになりました。公開決まってほんとよかった。邦題は案外わかりやすくて、ダサいけどそんなに悪くないよね。