「ソーシャル・ネットワーク」メモ

こないだの「ソーシャル・ネットワーク」の感想は珍しく、作品を解体し自分なりに再構築してしっかり「レビュー」として完成させようと試みたものなので、音楽や演技にまで手を出したらおそらく私の拙い文章力では散漫な印象を生んでしまうだけだろうと思い、フィンチャーの演出とアーロン・ソーキンの脚本以外のたくさんの素晴らしい要素にはまったく触れられなかったのがたいへん残念でありました。なので、今日はSNの音楽や演技についてメモ程度に書こうと思います。

まず音楽について。フィンチャー映画はどれも音楽がかっこいいですが、SNに関しては、私にとって初めての映画館(ちゃんとした音響設備の整っているところ)で観るフィンチャー映画だったということもあり、よりその重要性を感じさせられました。大音響で楽しむべき映画であるな、と。音も映画体験の一つだと改めて思った。特にクラブのシーンでの音が腹にズンズンくるかんじが半端ない。マークがショーンのペースにのせられていく様が音楽からも伝わってきます。

サントラを手がけたのはトレント・レズナーなんですが、非常にいい仕事してます。個人的に好きなのは、冒頭のエリカとの会話を終え、マークが駆け足で寮へ帰る場面の音楽。シンプルでもの寂しいピアノの旋律に小さいけれど確実に聞こえる不穏なノイズ、そしてそこにマークのパタパタという足音が重なる。静かで穏やかだけれど、心の底のほうでは孤独や哀しみ、あるいは反逆の精神がかすかに渦巻いているような、そんな音です。特にこのシーンではマークの「心の音」のように聞こえる。「足音」が加わっているからますますそう感じるのかもしれない。走っているマークの心音のように。あの音はあのときのマークが作り出しているのかも。そこからフェイスマッシュ立ち上げで一気に反逆児へとスイッチするときの、あのぐいぐい引き込んでいく音楽がまた最高です。ノイズとして渦巻いていた孤独や反逆精神を今度はエネルギーに変えるような。他の場面の音楽も緻密な音設計でかっこいいです。サントラ注文したんだけど、まだ届くまで日にちかかりそうだなあ。

The Social Network

The Social Network

続いては、俳優陣に関して。まず主演のジェシー・アイゼンバーグくん。すごく難しい役だったと思うけど、ヘタに演じると出てしまいそうな嫌〜なかんじを、知性とチャーミングさで絶妙に回避してました。それからとても明瞭な早口!超速いんだけど、一つ一つの単語をキレイに発音してる(気がする)。彼は「話す」センスに長けていると思う。どれくらいのスピードでどれくらい間をとってどんな抑揚で言葉を口から出すか。これを完璧にわきまえていると思います。「ゾンビランド」でのモノローグも素晴らしかったし。マークの親友、エドゥアルド役のアンドリュー・ガーフィールドはかわいかったな〜。今年はガー推しの1年にしますからね(勝手にあだ名つけてる、よかったら使ってください)。彼はとても丁寧な演技をするなあと以前から思っておりました。真面目で誠実だけど、ちょっとぼんやりぬけてるところがありそうな顔をしているというか、まさにそんな役だった。上質な演技をする役者さんなので、これからに期待。あと一番ハマってたのは、みなさん言っているようにショーン・パーカー役のジャスティン・ティンバーレイク。胡散臭さが絶妙すぎる。あの胡散臭さはもちろんジャスティンの演技センスによるものなんだけれど、もう一つその要因を挙げるとすると、「声」かな。あのちょっと高めな声は歌うとセクシーでかっこいいんだけど、喋り方によってはすごい胡散臭く聞こえるやもしれんと前から思っていたのだった。独演会のシーンと終盤の百万人突破パーティーのシーン(ここでの情けなさといったら!)が大好きです。

でもでも、ルックス的に一番惹かれるのは単純にウィンクルボス兄弟を演じたアーミー・ハマーなのでした。顔の好みは王道なのです。ボートの競技会シーンは食い入るように観ました。はい。


追記的な何か

今回の「ソーシャル・ネットワーク」レビューはいろいろな方の感想・レビューをけっこう参考にさせていただきました。その中で、あの1回目の観賞時に感じた「『ファイト・クラブ』の10年後にこんなのが撮れるのか、フィンチャーまじやべえ!!!」という感覚を大切に、「10年後の『ファイト・クラブ』」と「現代アメリカ型青春映画」という軸を設けて、自分なりにまとめあげたつもりです。何が言いたいかというと、えーと、参考にさせていただいた方々ありがとうございました。様々な角度からのレビューのおかげで2回目の観賞は3倍くらい楽しめました。

あ、それと、登場人物やストーリーをほんとにそっくりそのままロックバンドの伝記に置き換えることができますね。マークはモテないナードだけど、才能豊かなソングライター兼ボーカル。エドゥアルドは才能は凡庸だけど、誠実でバンドのマネジメントも務める(そのためにお金も出している)ギタリスト。ショーンはかつてのスーパーギターヒーロー(もちろんマークのアイドル)、今はアル中。プロデューサーみたいなこともやっている。年齢もよくわからないグルーピーを従えている。マークをそそのかして、エドゥアルドとの関係を切ってしまう。マークはエリカにフラレたショックと怒りからギターをとりバンドを始め、次第にバンドは大きくなっていく。レコード会社のおっさん達にダサい衣装をムリヤリ着させられそうになり、「そんなダサい服は絶対に嫌だ」というマークと「いやでもレコードを出すためには仕方ないよ」と迎合しようとするエドゥアルド。そこに「迎合する必要なんてまったくねえよ」と言って入ってくるのがショーン……とまあ見事にはまりますね(レコード会社のおっさんにあたる人はSNには登場しませんが……)。バンド名の「The」もショーンのアドバイスでなくなるのですよ。しかしこの置き換えをするときにやっかいなのはウィンクルボス兄弟ですね。まあそんな妄想はどうでもいいんですけど。しかし、こんなにオーソドックスなドラマをまったく使い古された感を感じさせずに現代のフォーマットで形にしてしまったソーキンとフィンチャーはまじでやべえです。結局これが言いたかったのかよ、という(笑)。

んーと、あともう一つだけ!音楽ライターの天井潤之介さんのSNレビューがなかなかおもしろかったです。Facebookの革命性に着目し、「ファイト・クラブ」との比較もされてました。同じようなことを書いているレビュアーはアマの方にもいらっしゃいましたが、天井さんのはコンパクトでわかりやすかったなと思ったので挙げました。プロの映画ライターのレビューでも「?」なものが多い中、音楽ライターの方があのようにわかりやすく興味深いレビューを書いているというのは、ちょっとした皮肉にもなるかもしれません。ほんとは映画ライター、音楽ライターの問題ではなく、個々のライターの問題なのですが。