2010年のまとめ【映画編】

一昨日書いた通り、映画編やります。こちらもベスト10のランキング方式です。しばりは、例のごとく今年日本公開された作品。自分の「好き!」の基準で選びましたので偏ってます。では始めてみたいと思います。

【2010年映画ベスト10】

10.ゾンビランド/Zombieland

これはもうめちゃめちゃ笑える!コメディなんだからそりゃ笑えなきゃダメでしょって話でもあるんだが、しかしここまで爽快な笑いというのもなかなか作れるもんじゃないと思う。とにかくハイテンションなゾンビバスタームービー。ゾンビの倒し方がいちいちおもしろすぎる。カメオ出演の俳優BMさんも大活躍で腹筋が6つに割れる寸前でした。しかしこの作品はただゾンビをボコボコ倒して騒ぐだけのものではなく(それでも十分おもしろいと思うけど)、大切なものを失った男と失うどころか端から何も手にしていない童貞くんと自分たちしか信用していない美人姉妹とが出会い、荒廃したアメリカの土地で家族も友情も恋愛も含めた新たな関係を築いていくという、再スタートの物語でもあって、そこがすごくいいんだよね。特に主演のジェシー・アイゼンバーグくんのモノローグがこの作品のムードをしっかりリプレゼントしてる。モノローグがいい映画は惚れます。それからウディ・ハレルソンの演技もよかった。

ちなみに、私はこの作品を、クリームメロンソーダを飲みながら7人くらいのお客さんとちっこいスクリーンで観賞しました。客が少ないのは寂しいけれど、そのときの状況はなんだかこの映画のムードと呼応しているようで、ちょっと嬉しくなりました。という、よくわからないエピソード。はい。

トレイラー

9.ローラーガールズ・ダイアリー/Whip It

エレン・ペイジは、リリー・アレンに次ぐ私のアイドルになった。「JUNO」を観たとき私は16才だったし(正確にはまだ15だったんだけど、2ヶ月後に16になった)、この作品を観たとき私は17才だった。悉くエレンちゃんが劇中で演じてる役と同じ年齢。だからどうしても思い入れが深くなっちゃうんだが、それを抜きにしても、この作品はとってもキュートで楽しい良作だった。ドリュー・バリモアの初監督作品ながら、ぎこちないところはなく、脚本も演出も演技も音楽もクオリティが高い。そしてなにより、正直だと思う。「正直さ」が、私が映画や音楽に求める最大のものです。それは「正しさ」や「純粋さ」ではなくて、自分に対して嘘はないか、ということ。自分の今の生き方に対して正直であるか。そういう点から見ていくと、この作品はとても正直だと思う。プライドも飾り立てることもない。そういう姿勢で撮られた作品が悪いわけないよね。エレンちゃんの脇をかためるジュリエット・ルイス他の役者陣もみんなよかった。それからMGMTのKidsがかかるシーンは最高にハッピーであると同時に泣きそうになった。あらすじを読み返すだけでも、胸がぐっと熱くなって表現しがたい特別な思いが湧き起こってくる作品です。

トレイラー

8.ナイト&デイ/Knight And Day

本国アメリカでは製作費を全然回収できず大ゴケしてしまったようだが、なんで?これめちゃめちゃおもしろいじゃない。確かに、パーフェクトなアクション系ラブコメを撮るなら、これじゃちょっと中途半端だと思う。アクションシーン省略とか特に。でも、「トム・クルーズが出てくるだけで笑える」現象を逆手にとり、「キャメロン・ディアスはヒロインとして年齢的にキツイ」を「いやいや、年齢はむしろ強さでしょ!」に転化して、トムちんとキャメロンという前時代感漂うキャストを巧みに使いながら、最終的に壮大な異形のロマンス映画を作り上げてしまう、ってこんなの他にありますかね。天然でやってるんだか自覚的にやってるんだか微妙だけど、ジェームズ・マンゴールド監督はおそらくアクション系ラブコメのフィールドの人ではなくて、そのため、いろんなことを逆手にとってありきたりになってしまうのを避けられたんじゃないかなあと思う。アクションシーン省略にしたって、(これをどういう意図でやったのかは知らないが、たとえ手抜きだとしても)「省略したからつまらない」ではなくて、「省略したからこそおもしろい」にしてると思うのです。というのは、肝心な部分が省略されているので事の次第(何が起きどうしてそうなったか)がまったくわからないんだけれど、キャメロンのかすかな記憶として事の次第の断片がちょっとだけ映りこんでいて、その断片が非常におかしなことになってるんで、「あれ?今ちらっと映りこんだあれは何?え、気になるよ、もっと見せてよ」っていう一種のチラリズム的なものになってるんだよね。気になるから、もっと映画に入り込んでいくというか。あんまりうまいこと説明できないんで、これはもう「観て!」としか言えないんですが。詳しい感想はここ(http://d.hatena.ne.jp/momochixxx/20101122)に書きました。とにかくおもしろかったです。観逃さなくてよかった度では今年No.1。

トレイラー

7.インセプション/Inception

これはもう純粋におもしろかったです。「メメント」もそうだけど、頭をいいかんじに使うというかね。ノーラン作品を「頭の体操」なんて言う気はもちろんないですけど、一種パズルのようなところがあって、観終えたあと心地いい疲労感が残る。予告なんかを観ると、なんとなく壮大なずっしりとした印象を受けるんだけど、実際それほどビッグなかんじではなくて、頭の中できっちり整理して作られた、思ったよりコンパクトな作品だった。まずノーランのルール、ノーランの設計図が提示され、それからノーランの世界へようこそってかんじで始まる。始まってからはあっという間だったなあ。150分もあるようには思えなかった。「ダークナイト」はけっこう長さを感じたんだよね。だから退屈したなんてことはないけど、150分相応の長さは感じた。でも「インセプション」はあっという間に駆け抜けていって、気づくと頭にボワーンとした余韻が残っているというかんじ。このボワーンとした余韻に浸るのがとても気持ちいい。

あとノーランは本当に男を色っぽく撮りますね。今回はアーサーを演じたジョセフ・ゴードン=レヴィットとイームスを演じたトム・ハーディ。ここで「私はイームス派ですよ、えへへ」なんて話はしませんけど、2人ともよく撮られすぎ(笑)。特にトム・ハーディはおいしすぎますよ。一方レオ様にはあんまり興味なさげなノーラン先生でした。

トレイラー 最後にイームスの名台詞が入ってるやつです

6.ヒックとドラゴン/How To Train Your Dragon

観逃さなくてよかった度No.1が「ナイト&デイ」だとすると、No.2はこの「ヒックとドラゴン」です。これはツイッターやってなかったら確実に観逃してた。この作品は、なにより映像がすごい。トゥースの飛翔シーン、雲を突き抜け水面ギリギリまで急降下し猛スピードで空を飛んでいく。この気持ちよさ。気づくと涙が出てましたね。どうして現実にはドラゴンがいないんだと恨めしくなるよ。そしてトゥースの造形。絶妙にかわいくてかわいくない。愛情があるかないかで、かわいらしく見えるかどうかも変わる、絶妙のキャラクターデザイン。ストーリーは、子供向けアニメでありながら、一番共感するのは思春期の少年少女じゃないかなと思う内容。落ちこぼれの自分と偉大な父とのギャップに苦しみ、自分の力で何かをつかみとろうともがく男の子の胸熱な成長物語です。やはり劇場には小学生以下の子供とお母さんが多かったんだけど、ぜひ私より少し下の年齢(中学生とか)の子に観てもらいたいなあと思う作品でした。

トレイラー

5.レポゼッション・メン/Repo Men

ツイッターでぽろっと言った通り、レポメンが5位です。これは気持ちいい映画だった。怪しい艶のある映像、ジュード・ロウのモノローグ、バイオレンス描写と場違いなくらいセンスのいい音楽の組み合わせ、ピンクのドア前の攻防、どれをとっても気持ちいい。最後に外してくるB級感すら気持ちよかった。酷評も多いけど、私はすごく好きだし、気に入る人はすごく気に入る作品じゃないかな。主演のジュードとヒロインのアリシー・ブラガがとってもセクシーで、それほど際どい性描写はないのにものすごくエロティックな雰囲気。さらにB級映画の怪しい匂いが加わって、むせかえるような色気が漂ってる。ジュードと親友役のフォレスト・ウィテカーとの関係まで絡んでくると、もうなんだかよくわからない。このよくわからない怪しい色気にまんまと乗せられました。このランキングで、一番趣味が出たなと思う作品です。こういうのは嫌いになれない。あと、前にもブログで書いたんだけど、窮地に立たされた男の物語ってエロい。

トレイラー

はい、ということで5位まできました。普通ランキングってベスト3で区切るんだけど、私のランキングの場合、下の6つと上の4つにはけっこう差があるので、ベスト4で区切ります。では続き。

4.(500)日のサマー/(500) Days of Summer

観る人によって感じ方がまったく異なる作品のようだが、私にとっては超ニヤニヤできる映画だった。主人公トムくんが一喜一憂する姿に終始ニヤニヤ。「おまえこんなにウキウキしちゃって、来月にはフラれてるぞー、ニヤニヤ」ってかんじ。私はトムくんに1mmも共感しなかったんで、泣いたり悲しくなったり、あるいはスミスの曲がヘッドホンから音漏れした時にときめいたりしなかったけど、でもサマーちゃんとの関係を通して苦しんだり学んだりするトムくんの姿が愛おしくてたまらなかったです。しかし時折、「グチグチしやがって、こいつ何なんだよ」ってあきれたりしてね。この作品は、(映画を)観るというより観察するというかんじだった(ウディ・アレンの恋愛映画を観るときもこんなかんじ)。マーク・ウェブ監督自身、こういう目線でこの作品を撮ったんじゃないかなーと思う。この作品は監督の経験談を基にしているので、トムくんは過去の監督自身ということになるわけだけど、監督はちゃんと過去の自分を対象化できてると思う。もちろん自分自身がモデルになっているから愛情も注いでいるんだけど、同時に「こいつほんとどうしようもないね(笑)」っていう、一歩ひいた目線で見ているというか。ちょっと距離をとっているんだよね。だから独りよがりにならないで、エンターテイメントとして昇華できたのかなと思う。あと映像や音楽、ユーモアのセンスが抜群によくて、非常にうまい作品だよね。そしてオチがとってもキュートなのがよかった!そんなわけで、観る前はイライラするかなと思ったけど全然そんなことはなくて、むしろめちゃくちゃ笑わせていただきました。

トレイラー

3.キック・アス/Kick-Ass

いろいろ言いたくなってしまうのは、思い入れがあるからでしょうか。でも今日は簡潔に、なぜこの作品が好きかってことだけを書くよ。と、言いつつ、なぜ好きかってうまく言葉にできないんだよね。「おもしろかった」と言うのが一番しっくりくる。それ以上うまい言葉は見つからない。けど、ちょっと書いてみる。この作品を観て確信したんだけど、マシュー・ヴォーンの魅力って「わかりやすさ」ですよね。わかりやすい、単純なおもしろさ。ちょっと単純すぎて思慮に欠けるところもあるんだけど、とにかく流れを切らずに見せていくのがうまいし、そつがない。そうやって誰にでも楽しめる環境を用意しておいて、あとは、ヘナチョコなヒーロー気取りの男の子がある日めちゃめちゃ戦闘能力の高い女の子と出会って、彼女が次々と悪党どもを倒していき、結果何も成し遂げやしないけど、でもなんだこれすごい笑えるぞ!っていうそういう作品かな。とにかくこの良識を無視したバイオレンスアクションのカタルシスに酔う、というかんじ。好みはわかれても、非常にわかりやすいつくりなんで、観る人を選ばない映画だと思う。あと、しょーもない笑いがいっぱい散りばめられてるんだけど、それがいちいちツボでした。マシューとは笑いのツボが一緒なのかな。もう一つ突き抜けた感があったら1位にしたかもしれない。想像の範囲内のおもしろさだったので3位。とりあえず今言えるのはこれだけ。この作品については、もう少しうまく言語化できるようになったらまた何かしら書くつもり。

トレイラー

2.マイレージ、マイライフ/Up In The Air

ジェイソン・ライトマン作品の魅力は、「正直さ」だと思っている。「ローラーガールズ〜」のところで書いたのと同じ意味での正直さ。ライトマン作品の主人公はみんな他人に嫌われる仕事をしていたり周囲から浮いた存在だったりするんだけど、それぞれ自分の生き方に誇りを持っている(ジュノは思春期の女の子なんで、自分の生き方を見つける途中といったかんじか)。だから嘘がなく、ぬるくならない。雰囲気だけで終わらない鋭さがある(そうです、私はライトマンのファンです)。この作品のジョージ・クルーニー演じる主人公もそう。リストラ宣告人という嫌われ役の仕事に誇りを持ち、誰とも深く関わることなく自力で生きる人生を謳歌している。しかしそんな自由気ままなおっさんが、初めて人と深く交わることを知り、そして深く交わったがために初めての挫折を知る。なんてエモいんだ(エモいはもちろん誉め言葉です)。この作品では、主人公だけでなく自信満々だった新入社員も挫折する。リストラされた人もいっぱい出てくる。そうやって壁にぶち当たったとき、その壁を乗り越えるヒントになるのが、人とのつながりだろう、というのがこの作品のテーマかなと思う。もちろん、主人公は人と深く交わったがために挫折した。でも、人とのつながりをもってでしか生まれ得ないものもある。主人公はそれを学んだんじゃないだろうか。だから、人とのつながりによって壁にぶち当たったとしても、それを乗り越えるヒントも人とのつながりにあるんじゃないだろうか。私はこの作品を観てこんなことを考えました。ライトマン作品の中でも非常に洗練された巧みな作品。ビターさをポップに見せるのが本当にうまい監督だと改めて感じました。

トレイラー

1.第9地区/District 9

もうこれは観てない人は必ず観て!で終わりにしたい。たぶん、このブログを読んでくれてる人はみんな観たと思うけど。私がどんなに頑張ってもこの映画の魅力の1割も伝えられない気がする。なんだろう、このすごさは。サマーもニヤニヤしたけど、これ観てるときのニヤニヤ度は本当に半端なかったよ。まずドキュメンタリー風のゆるい前半でずっぽりハマった。ありえないようで、でもなんだかリアルで、監督のニール・ブロムカンプが人間に対しても社会に対してもとても自覚的なのがわかる。社会的なことも絡ませつつ、しかし作品自体を社会的な方向に持っていくことは絶対にしないで、あくまでエンターテイメントとして提供しようとする。なんというか、すごく「わかってる」人だよね、ニール・ブロムカンプは。いろんなことを鋭く切り取りつつも、告発したり抗議したりすることなく、作品をおもしろくする要素として盛り込んでいく。何より、人間のバカな部分から目を離さないで撮っているのがいい。そしてもちろんそこに批判は加えない。しかしそんなゆるい前半から一転して、後半は一気にギアチェンジ。ハイテンションで激エモーショナルなSFアクションへ雪崩れ込む。ぼんくら小市民の主人公が暴れまくる。もうこの展開に燃えないでいられようか!そしてなかなかに大掛かりなラストながら、ハリウッド大作にはない質感を残してくれるのがまたいい。それはやっぱり南アフリカヨハネスブルクという街で撮影したというのが大きいのかな。本当にもうこの作品はたまらなく好きですね。大晦日はこれを観ます。

トレイラー

はい、というわけでランキングはこんなかんじです。「17歳の肖像」が入ってないけど、これはもう別枠を設けたいですね。本当にいろんなことを考えた作品なので。あと「人生万歳!」や「フィリップ、きみを愛してる!」なんかもよかったです。

では最後にランキングのリストを↓

  1. 第9地区
  2. マイレージ、マイライフ
  3. キック・アス
  4. (500)日のサマー
  5. レポゼッション・メン
  6. ヒックとドラゴン
  7. インセプション
  8. ナイト&デイ
  9. ローラーガールズ・ダイアリー
  10. ゾンビランド