ボビーZの気怠く優雅な人生

以前このブログで感想を書いた映画「ボビーZ」の原作小説「ボビーZの気怠く優雅な人生」を読んだので感想書きます。

これは先日感想をアップした「犬の力」と同じドン・ウィンズロウ著の作品なんだけど、「犬の力」が30年近くにわたる何人もの思惑が絡み合った壮絶な物語だったのに対し、こちらはページ数も少なく爽快なラストでだいぶ読みやすい。気づくと「あれ、もう終わり?」というかんじで、めくるページがなくなっているような。ストーリーも、これまで負けつづきだった冴えないコソ泥ティム・カーニーが人生で初めての勝利をつかむまでを描いたものなので、読んでいるほうも応援したくなる。ティムと少年キットとの関係も微笑ましいし、「犬の力」に比べるとだいぶ敷居の低い話だと思う。それでもやはり人はたくさん死ぬし、現実の痛みもしっかり描かれている。そういうところでぬるくならないから、緊迫感があるし、短い作品ながら中身がぎゅっとつまっていておもしろい。そしてこの負け犬ティム・カーニーの物語がちゃんと描かれているからこそ、彼が初めて何かをつかむ瞬間、つまり一気に決着をつけるクライマックスの爽快さが格別なんだと思う。

映画はそのストーリーの肝の部分がちゃんと描かれてないのよねー。それに、原作の大筋をなぞってはいるものの、枝葉はかなり落としていて、バイオレンス要素とエロティック要素もほとんどなくなってる。かわりにB級要素をかなりプラスしていて(例えば最初にティムとキットが逃げ出すときの交通手段を馬というありえないものに変えてる)、原作よりは仕上がりもだいぶユルい。だからまあ、ウィンズロウの「血とセックスの色気」をちゃんと映像に落とし込めてないんで、あの魅惑の艶がない。でも私はあの映画版独特のB級感も嫌いではないんだけど。しかもブライアン役に原作での容貌とは似ても似つかないジェイソン・フレミングをあえて配してるんだから、これはやっぱり「狙ったB級作品」なんだと思う(なんでもできるフレミングさんだけど、B級な役のハマリっぷりは異常)。原作の世界観はあまり引き継いでないけど、これはこれで楽しめるかと。

でもやっぱり原作のほうがうまいしおもしろいので、鑑賞するなら、映画→原作の順番のほうがガクッとこないで済むと思います。

ボビーZの気怠く優雅な人生 (角川文庫)

ボビーZの気怠く優雅な人生 (角川文庫)