チェンジリング

クリント・イーストウッド監督の「チェンジリング」を観ました。

これはすごい映画だなぁ。まずこの話が実話だというのに驚くよね。腐りきった警察の体制、恐ろしい事件、ひどい扱いを受ける弱い立場の人々…すべて実際に起きた出来事なんだからすごい。でもこれだけの題材を、単に「恐ろしい、許されない話」で終わらせず、140分という尺をたっぷり使って一人の女性の闘いの物語として描き出したイーストウッドこそすごいよ。

何かのサイトで、イーストウッドストーリーテリングに定評があるというのを読んだんだけど、本当にそうだね。140分というのは映画として決して短くないし、物語が冗長になってしまう危険性もあると思うんだけど、イーストウッドは丁寧に丁寧にストーリーを紡ぎだしながら見せていって長さを感じさせないし、逆にあっという間に終わってしまったという印象でもなく、すごく気持ちよくお腹いっぱいにさせてくれるような、そんな満足感がある。

とにかくこの作品は、闘う女性の物語であるなあと思う。「女は弱い生き物だから」「理論的じゃないことを言う」「警察に楯つくイカレタ女の話なんて誰が聞くと思う?」等のセリフが出てくるし、失踪した息子を探す主人公を演じたアンジェリーナ・ジョリーの凛とした演技からも、それは伝わってくる。確かにこの作品は警察の腐敗を暴き出す社会派サスペンス的な色合いも強いと思う。でもそれ以上に、一人の女性が(しかも1920〜30年代という時代で)、自分よりも圧倒的に強い存在である警察に楯つく反骨の物語であり、彼女が自分自身の力で人生を切り開いていく希望の物語であると思う。だから、決して明るくはないストーリーだけれど、観賞後に重たい気持ちにはならなかったし、「こんな腐敗しきった警察はおかしい!許せない!」と怒り狂うのもなんだか違う気がする。それよりも、こんな力強い正義の女性がいたんだという歴史を描きだした作品であるように思う。また主人公をサポートする面々が素晴らしくて、牧師は彼女に正しくスマートに警察と闘う方法を教えたし、娼婦は彼女に必要な時は必要な言葉を使う、反骨と不屈の精神を教
えた。それから、彼女に「休んだほうがいいよ」と声をかける男の同僚が出てくるのも気がきいてる。この作品全体から伝わる力強いヴァイブが、暗い印象は与えずに満足感を抱かせてくれたのかなと思う。とても好きな作品です。


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