戦火の馬

遅ればせながら観てまいりましたので、ごくごく簡単にコメントを。

力強く美しい、これぞ映画と言いたくなる作品だった。戦場を駆け抜けた一匹の馬の「ゆきてかえりし」物語でもあり、馬に魅入られた人々の様々な物語の連なりでもあり。

魅惑的なものには何でも危険が潜んでいるように、美しくしなやかな体躯を持ったジョーイは、「奇跡の馬」と呼ばれる一方、ある意味「呪われた馬」とも言えるように思う。人々はまさにその魅力に「取り憑かれ」、彼らの迎える結末は必ずしも幸せなものではない。ジョーイは紛れもなく「戦火の馬(war horse)」だった。そんな、ともすれば人々を地獄に招きかねないほどの魅力(それはどこか官能的ですらある)を持った馬の麗しい姿に、この映画のすべてが託される。馬の走りという運動が映画の推進力となって、物語を牽引していく。

サイレント映画のようにほとんど言葉のない冒頭とラストもいい。スクリーンにびしっと引かれた地平線、眼下に広がる農村の風景、真っ赤に燃える夕陽――それらだけでここまで物語ることができるのだということに、ただ感動した。その雄大な映像とともに流れるジョン・ウィリアムズによる音楽もやはり素晴らしく、観客の体温をぐぐぐっと上げる。この人のスコアは、聴いているとなんか胸が踊るよね。


※それにしても、馬の表情の引き出し方は見事だった。ジョーイと親友(と思ってるかどうかはわからんが)の黒毛馬との交流には「猿の惑星:創世記」同様、脳内字幕をつけて見てしまったよ。特に、黒毛馬が大砲を引く馬に指名されたときの表情「えっ!?俺ですか?」と、つづくジョーイの「なんてこった!」なリアクションにはちょっと笑った。