モンスター上司

モンスター上司 ブルーレイ&DVD セット【初回限定生産】

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昨年見逃してしまった、ジェイソン・ベイトマン主演のコメディ。おもしろかった。

2分の遅刻をしつこく問い詰め、早退を許さない取締役(といっても日本でのそれとは違って、たぶん部長ポジション)、助手に性的関係を持つことを強要する女医、父の後を継いで社長になったものの、薬物中毒の上、自分の儲けしか考えられないお坊っちゃん——それぞれに厄介な上司を持つ3人の男が、ついに我慢の限界を迎えて上司たちを殺す計画を立てる——というのが基本的なプロットなのだけど、そこから予想外のツイストを見せるから楽しい。あることをきっかけに、突如思いもしない方向に話が展開し、そのままあれよあれよと転がっていくのを最後まで勢いに乗って見られる。後半は(あまりいい例えじゃないが)小規模なガイ・リッチー映画のような、その場にいる誰もがちゃんと状況を掴めていないドタバタのクライム・コメディになっていて、ああいった展開が好きな方は大いに楽しめると思う(ノリや雰囲気が似てるわけではないです)。ただ、曲者上司3人を揃えながら三つ巴の展開にならなかったり、締め方が少し安直すぎたり、欠点がないわけではないけど。

それにしても、ケヴィン・スペイシーの存在感たるや、だよ。彼がいなかったら、あの展開に持ち込むのは難しかったのではないか。「スペイシーだからこそ」の役を嬉々として演じていて、中盤以降のサイコっぷりは流石と言うほかなかった。役者を見るときは、どうしてもその人がそれまでに演じてきた役を重ねながら見るけど、スペイシーの役はそれをうまく利用したキャスティングだと思う。残りの二人の上司を演じた、ジェニファー・アニストンコリン・ファレルもクレイジーな怪演でお見事。

一方、曲者上司たちに悩まされる3人、ジェイソン・ベイトマンチャーリー・デイ、そしてジェイソン・サダイキスもよかった。何がいいって、三者それぞれに違う魅力のある「声」がキャラクターとして活かされていること。特に変わったところのない、中音域で滑らかな声のベイトマンは、比較的常識のあるまとめ役。劇中でハムスターに例えられる(それは容姿も含めだけど)、高めの声質で慌てた話し方のデイは、セクハラ女医に振り回される損なポジション。低く落ち着いた声に色気があるサダイキスは、気づくと女の子に手を出しているプレイボーイ。スペイシーについてもそうだったように、こうやって役者が持つものをうまくキャラクターに落とし込むキャスティングはいい。脇役やカメオの使い方も、アメリカのコメディ映画らしい巧さが光っていた。

荒っぽいストーリーのようでいて、実はリーマンショック以降の不景気が背景になっていたり、逮捕歴があるという弱みを盾に嫌がらせを受けている(しかもそれ故に他への再就職が難しい)という設定があったり、社会状況への目配せはしっかりしてある。そもそも、そういう厳しい時代のコメディを作ろうというコンセプトが根本にある気がするし、そんなご時世だからこそ、この映画を犯罪劇として動かすことができたのだろうと思う。

最後に余談だけど、賛否あろう邦題は、私はけっこう好き。30年後の感覚でどう捉えられるかはわからないけど、とりあえず今の日本語で原題"Horrible Bosses"のニュアンスを出せる、いい言葉のチョイスだと思う。それとポスターのデザインも(DVDのパッケージとだいたい同じ)。上3人のインパクトと濃い色づかいがいいね。元々この映画に興味を持ったのは、このポスターが気に入ったからなんだよね。