小悪魔はなぜモテる?!

昨年「ステイ・フレンズ」という超傑作を放ったウィル・グラック監督の前作。本国ではEasy Aというタイトルで公開されヒットしましたが、日本では「小悪魔はなぜモテる?!」なるちょっとよくわからない邦題をつけられDVDスルー。この邦題、ダサいとか内容を正確に表してないとかもあるけど、個人的には中途半端に長いのが難点だと思う。ツイッターなんかでは文字数食うし微妙に書くのかったるい。以下、ストーリーを知っていても魅力が損なわれることはないけれど、やっぱり事前に読んじゃうといろんなシーンの驚きがなくなるかなってかんじ。

頭がよくキュートでもあるけど学校では目立たない、つまりごく普通の女子高生オリーブ(エマ・ストーン)が、何気なくついた「セックス経験あり」という嘘からビッチのレッテルを貼られてしまうというストーリー。

オリーブはみんなからの注目を集めるという初めての経験に気をよくして、自らビッチの評判に乗っかっていくのだけれど、次第に「話題の中心になる」というのは彼女が想像していたような映画みたいに華やかな体験ではないということがわかってくる。彼女が映画の世界に憧れていることは劇中で度々触れられていて、特に学園映画の監督として有名なジョン・ヒューズへの言及が印象的(私は「ブレックファスト・クラブ」しか観てない、いやむしろ「ブレックファスト〜」くらいは観ておいてよかった)。でも、映画のワンシーンのようなドラマチックな瞬間をどれほど夢見ても、実際の彼女は週末の休みをずっと家に籠って過ごすような地味な女の子。あの「週末の過ごし方」の描写の秀逸さには大いに笑ったと同時に泣いたよ!だって私の休日ってまさにあんなかんじだから。どうしてああも正確かつコミカルに地味女子高生の日常を切り取れるんだろうか。あのあと私の頭の中でもPocketful of Sunshineが鳴りやまなくなって、この土日はアイガラアイガラ言ってました。

そんなわけでオリーブは、映画みたいな瞬間は自分の人生には訪れっこないんだということを重々承知しているのだけれど、それでもやっぱり憧れは捨てきれなかったりする。これは他の方も指摘されていたことだが、このオリーブの「現実には無理だと知っていても諦めきれない映画への憧れ」は「ステイ・フレンズ」のジェイミー(ミラ・クニス)にも共通していて、ジェイミーはラブコメ映画のようにいつか王子様が迎えに来てくれるのを待っていた。

彼女たちのこうした姿は映画を観ている私たち(特に本作では、学校では目立たない存在で、映画の中に自分と同じような地味な子が幸せを掴む瞬間を求める女の子たち!)の姿でもあるし、もっと言えばウィル・グラック監督をはじめとする作り手たちの姿でもあるんじゃないかと思う。私たちは、私たちの人生が映画ではないことを知っているけれど、映画の世界やハッピーエンドをこの上なく信じている。だからこそ、映画を楽しいものに。多幸感で溢れたものに。ウィル・グラック監督の基本精神はつまりこういうことなんじゃないだろうか。彼の映画には映画そのものへの愛と同じだけ、映画を愛する人への愛を感じる。あれだけメタ的なことをやっていながら、本作や「ステイ・フレンズ」がとても心地のいい作品なのは、まずもってしてウィル・グラック自身が映画をどこまでも信じていて、同じく映画を愛する人たちに寄り添えるものを作ろうとしているからなんだろうなと思う。

それに彼は思いだけでなく、楽しさを提供する技術やセンスも抜群。オープニングから遊び心があってワクワクするし、先述した「週末の過ごし方」シークエンスの一つ一つのカットとその繋ぎ方であったり情報が広がる驚異的なスピードを見事映像で表現した長回しであったり、随所に気持ちのいい演出がいっぱい。「ステイ・フレンズ」では更に洗練されたものが見られるけど、本作もリズミカルでカラフルで、やっぱりウィル・グラックの映画はとにかく楽しい!

オリーブとジェイミーに共通することと言えば、二人を演じたエマ・ストーンミラ・クニスはどちらもはっきりとものを言う魅力的なハスキーボイスと主張の強そうな大きな瞳の持ち主。二人とも頭がキレそうで、あの渋い声で台詞を言い切る瞬間がかっこよく、且つキュート。困難に直面してもカラッとした笑顔と行動力で現実をサバイブしていく、こういうヒロイン像っていいよなあ。

嘘によってビッチ認定されたオリーブは、みんなの注目の的になり勝手な噂を立てられたり罵られたりするようになる。でも、他の誰かに自分のことについてとやかく言われる筋合いはまったくないの、とベーッと舌を出して非難や中傷をかわしていくオリーブの軽やかな身のこなしが頼もしい。彼女は反抗的になったり誰かに泣きついたりするのではなく、彼女について非難する人々を理解しようとする。何よりもまずオリーブはスマート。最終的に彼女が選んだ行動も現実的で今の世界に則していて、すとんと腑に落ちる方法なんだよな。そのあたりにも巧さが光っていた。

小悪魔はなぜモテる?! [DVD]

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最後にちょっと余談。映画はとてもよかったけれど、一つ残念なのは、やっぱり高校生のうちに観ておきたかったなーというどうにもならないこと。これはたぶん、これから学園ものの良作を観たときはずっと言い続けることなんだろうけれど。でもこの映画のメッセージは若い女の子だけじゃなく、他人に自分のことをあれこれ言われて窮屈な思いをしたことがある人なら誰にでも届くものだし、逆に自分なんかは周りの評判をよく気にしてしまう(し、他人を自分の思うようにさせたいと勝手なことを言ったこともいっぱいある)からオリーブの最後の言葉にはっとした。私が勝手に「私のアイコン」と呼んでいる女性たちが何人かいるんだけど、そんな中にエマ・ストーンも入りそう。ちなみに他はリリー・アレンエレン・ペイジ。「17歳の肖像」のキャリー・マリガンCSSもそうかも。