4デイズ

昨年「スリーデイズ」「5デイズ」と並んで「デイズ」映画として話題になった「4デイズ」を観ました(明らかに公開時期を被せておった……)。「対テロ戦争以降のアメリカにもたされたものは何か?」を描いた作品。

(ネタバレをするつもりはないですが、なんとなくどんな内容かはわかってしまう気がします)

この作品にはラストシーンをカットした短いアメリカ版(正式には北米版だったかな)とカットしていない完全な日本版の2種類があるのだが、私は誤って最初に短いアメリカ版を観てしまい、あれれ……という気分になった(その後に日本版ラストは確認したけれど)。というのも、ラストシーンがあるのとないのでは映画が描きたいことの明確さに大きな差が出てしまうのだ。ラストシーンがないと、この映画が冷徹に突きつける現実の輪郭がぼやけてしまう。カットされた理由もわからなくはないのだが、やはりこれはあの最後を見せてこそだろう。なもんだから、ここでは日本版を観たという体で感想を少し記しておく。ちなみにレンタルDVDで観る場合、音声字幕メニューから再生すると自動的にアメリカ版が始まるので、ご注意ください。

イスラムアメリカ人のテロリストにより国内3ヶ所に核爆弾が仕掛けられた。テロリストの身柄は難なく拘束されるが、爆弾は全て4日(96時間)以内に爆発するという。国家的危機の中、FBIエリート捜査官ヘレンのもとに召喚されたのは、尋問のプロ“H”。彼は、考え得る限り最も暴力的な取り調べを行うが、テロリストは一向に口を割ろうとしない。ヘレンは自分のモラルに反する彼のテクニックに協力できるのか?そして、アメリカ国民の安全を守るための取り調べは、やがて狂気じみた“想像を絶する”尋問へと姿を変える。極限の状態では、もはや正義も悪も存在しない。本当の正義とは何か…。
(goo映画)


引用した紹介文に「イスラムアメリカ人」とあるが、マイケル・シーンが演じたこの犯人はイスラム教に改宗した白人のアメリカ人であり、アラブ系を意味するわけではない。おそらく祖父母以前の代からアメリカに住む、「れっきとしたアメリカ人」だ。他にも、長時間画面に映る主要キャストたちは皆「アメリカ人」であり、舞台も「アメリカ国内」のとある施設というほぼワンシチュエーションに絞られている。この「アメリカ人がアメリカ人を拷問/尋問する」というミニマルな舞台劇を設定したことで、対テロ戦争以降のアメリカが抱えるあらゆるものが一所に凝縮され、国内の問題として意識される構造になっていると思う。アメリカ自身が生み出したシステムがアメリカをどん詰まりに追い込む――この映画はこのことをはっきりと言い渡してしまう。

市民の人権を剥奪し目的のためならば考えがたい(Unthinkable=原題)拷問を行う。これを可能にしてしまうのが今のアメリカの防衛システムであり、ここでもサミュエル・L・ジャクソン演じる拷問のプロフェッショナルHによって様々な暴力行為が行われていくのだが、犯人はもとよりそれを覚悟でテロ行為に及んでいるのであって、尋問は思うように進まない。何も生み出さず、ただ時間だけが過ぎていくこの様子はアメリカのイラク戦争などでの苦戦ぶりを示しているし、繰り返しになってしまうが、これをアメリカ国内の問題として描いたことがこの作品の持つ刃の鋭さに繋がっていると思う。

キャリー・アン・モス演じるFBIの職員はHから唯一「良識がある」と言われる、本作の良心というような存在であり、たいていの人はおそらく彼女と同じような葛藤を感じつつ映画を観ていくことになる。けれども、この戦争は善だ悪だというレベルをとっくに過ぎてしまっているのであって、次第に戦いが「いかにして勝つか」というクリアな考えを持った犯人とHとの一騎討ちになっていく中で、彼女の正義感や倫理は脆くも崩れ去ってしまう。そして勝利のない泥沼の戦いは続いていき、このシステムの前では「何が正義か?」と問うことすらできなくなっていると明かされる。このあたりは本当に容赦がない。「勝つこと」を知っている二人、Hと犯人がともに「一般的なアメリカの良識」の外にいる/接触しているというのも興味深かった(Hの妻はユーゴスラビアの内戦を知るボスニア人)。

そんなわけなので、なかなかずっしりくる作品ではあるが(拷問シーンもさほどバイオレンスではないが存在するし)、ここまで冷徹に、明確に「対テロ戦争アメリカにもたらすのは終わりなき戦いだけだ」と言いきってしまうものもそう観られないし、何よりこのギリギリなところをいく脚本を見事に演じきった役者陣が皆素晴らしいので、オススメです。