灼熱の魂

去年の秋頃からシャンテ行く度に予告見続けて気になってたんで観てきましたよ。いや、これね、予告から想像する諸々なんて序の口に過ぎなかったです。凄い。

http://shakunetsu-movie.com/
(今年から映画の説明を自分で入れるかわりにオフィシャルへのリンクを貼ります)

モロに核心に触れるつもりはないけど、物語に言及せずに書くのはどうしてもできないので、既に観賞する予定がある人は読まないほうがいいかも。


レディオヘッドのYou and Whose Armyが流れる中、頭を丸刈りにされる少年たち。そのうちの一人、踵に印のある少年が、カメラを通して映画を観ている私たちをじっと睨む。その少年の瞳の、なんと力強いこと。オープニングにこんなシーンを持ってきただけでも凄いと圧倒されるのだが、しかしその先の物語は更にそれを上回っていた。好き嫌いはさておいて、この映画には誰もが頭をガツンと殴られるような感覚を覚えるんじゃないだろうか。

話の展開そのものは荒唐無稽とも言えるし、描き方によっては意地の悪いイヤーなかんじになってしまいそうなもの。しかしこの作品の場合、その語り方があまりに見事なこともあって、ともすれば悪辣な話になってしまいそうなものが非常に力強い物語へと押し上げられている。

この映画でキーになっているのは、「連鎖」「繋がっていくこと」。宗教の違いから昨日まで隣人同士だった人々が殺し合い、報復を恐れてはまた虐殺を繰り返す。その憎しみと血の連鎖が止まらない内戦の惨状を生きたナワルという女性の人生を、残された彼女の子どもたち(双子の姉弟)が辿っていく。

ナワルは子どもたちに「怒りの連鎖を断ち切るのだ」と言うのだけれど、むしろ私の目に強く焼き付いたのは、どうしたって繋がっていく、すべてが絡み合っている、その断ち切り難い鎖の強固さのほうだった。「何事も繋がっている、それが世界ってもんだ。ほら、目の前にそれが示されているじゃないか、そこから目を離すな」と言わんばかりに、この映画はそうした現実をまざまざと見せつけ、観るものをねじ伏せる。この鎖はそう簡単には切れない。その事実を前にしたら、こちらとしてはもう打ちひしがれるくらいしかできないというか。

だからここで行われるのは、単に今までの流れを切るということではなくて、これまで怒りや憎しみによって繋げられてきたものを、愛と約束で結び直して物語として再構築し共有する、ということなのではないかと思う。双子の姉弟の母の人生を辿る旅というのはつまり、その再構築の旅だったのではないかと。その先にようやく浄化が訪れ、約束は果たされたことになる。

この作品はまた、ミステリーとしての語り方も一切淀みがなく堂々たるものだった。母ナワルの人生とそれを辿る姉弟の旅が交互に描かれるのだけど、その二つの物語のズレが小さくなって、二つがガシッと合わさる瞬間の衝撃が凄い。物語の手繰り寄せ方が絶妙だからこそ、その衝撃が生まれ得る。個人的に特に唸ったのは、細かく章立てして話が進む中、章のタイトルの意味がわからないものが一つあったのだが(これは私の見落としの可能性も捨て切れないのだけれど)、その意味が明らかになる瞬間。ここはため息しか出なかった。

これまで見てきたように、この映画では人間の愚かさを見せつけるような凄まじい惨劇が長きにわたって繰り広げられるわけなのだが、そんな中でも真っ当なことを言ってくれる人が何人かいることには少しほっとした(最初のおばあさんとか、おじさんとか)。しかしこれは、そうした真っ当な考えが隣人同士が殺し合う現実の中で脆くも崩れ去ることを思い知らされる映画でもあるから、本当に言葉が出なくなる。涙すら出ないほどに暗澹たる状況。

演じた役者陣も皆よく、母と娘に顔立ちの似た女優を据えたキャスティングも見事。場面が切り替わっても、しばらく母と娘のどちらかわからなくなるのがおもしろい。物語が「繋がっている」感覚を常に忘れずに観ることができる。それと話が少し逸れるのだが、「双子の姉弟なのに弟がずいぶん子どもっぽいなー、いやお姉さんが大人っぽいのかな?」と思って調べてみたら、弟役のマクシム・ゴーデットが74年生まれでのけぞった。え、おそらく役の年齢は二十歳そこそこですよね?え、ていうかこれで30代後半?

こんなに童顔な30代後半がいていいのでしょうか。まあ写真によっては年相応に見えるのもあるのだが、この映画に関してはものすごく若く見える。この映画で最も衝撃だったのはこれかもしれん……というのは冗談だけど。


最後に話を戻して。自分にとって好きな映画、特別な映画かと言われるとちょっと違うし、あれだけの悲劇を一人の女性に背負わせてしまうことに何かムズムズくるものもないわけではないのだけれど、しかしただただ圧倒されたのは事実。いやもう凄かったとしか言いようがないよ。