初オールナイト

クリスマスですね。だから特別どうということもないのですが、それなりにおいしいものは食べました。クリスマスイベントとして新文芸座ストップモーションアニメオールナイトに行って参りましたので簡単にまとめを。ちなみにオールナイト参加は初でございました。

新文芸座は外観は知っていたのだけれど中に入ったことはなくて、けっこう広いところなのだなあと思いました。チラシやパンフ等がたくさんあって、ほんとに映画に満ちた空間。座席にもうちょっと傾斜がついているとなお嬉しいというのはわがままか。。。一応防寒のためにブランケットを持っていってのだけれど、全然必要ないし、むしろ暑い。夏場はわからないけど冬は簡単に脱ぎ着できるものを重ねたほうがよいと思います。私なんて途中からTシャツになってたし。

観賞したのは長編3本と短編4本。一つずつ簡単に感想を。

メアリー&マックス

1本目からいきなりの大傑作登場!

観賞は2回目。初見時は映画館で大泣きして涙の跡が残ってしまい、家に帰るのに電車に乗れないじゃないか!と思ったほど。今回はさすがに号泣こそしなかったけれど、ケセラセラ以降わけわからなくなってた初見時よりもじっくり映画を噛み締めながら観れたので、いくつかの台詞や言葉で目頭が熱くなりました。

今回は初見時よりもマックスのパートに胸打たれることが多くて、特にSorryのくだりと「二人の道が交差してコンデンスミルクをわけあえたらいいね」という言葉にやられてしまった。これは、初見時は自惚れちゃうメアリーの痛々しさに思いあたるふしが多すぎて冷静になれず気づけなかったマックスの苦悩をようやくちゃんと理解できたということなんだと思う。最初に観たときは、メアリーが自分と同じ側の弱い人間で、マックスは周囲からは理解されづらいけれど自分を愛している強い人という印象があった。しかし今回、マックスは「世界を許せない」という苦悩を抱えていて、その苦悩は「自分を許せない」メアリーの苦悩と「不完全や醜さをなかなか受け入れることができない」という根本の部分で繋がっていて、つまりそれは私の弱さや孤独とも等しくリンクするものなのだということがやっとわかった。二人の苦悩の間にあるのは断絶ではなく繋がり。手紙によって繋がることの心許なさゆえにお互いに理解しあえず途切れそうになった二人の関係だけど、最後はその苦悩は溶け合い和らぐことができた。そしてそれが「二人の道が交差してコンデンスミルクをわけあう」ってことなんじゃないかと思う。


ファンタスティックMr.FOX

2本目は今回のお目当てであるウェス・アンダーソン監督によるストップモーションアニメ。原作の著者はロアルド・ダール

これはとっても楽しかった!思っていたよりもお洒落で軽妙で愉快な箱庭映画。人形たちの造形、衣装にこだわりがあってよいなあ。黄色を基調にした色彩もあったかくてモダンで素敵。このヴィジュアルには惚れ惚れします。

人形たちのコミカルな動きと横移動を巧みに用いたカメラワークが生み出すリズムの軽快さがストップモーションならではのものになっていて素晴らしい。大胆とすら言えるほどの動きの省略表現によって生まれる快感に浸る。

この原作は読んでいないが、ロアルド・ダールの作品というと良くも悪くも「昔ながら」を大切にしている印象があり、古いなと思うところもけっこうあるのだけれど(といいつつこの人の作品そんなに読んだことないけども)、この映画はそれをうまく現代的にしてるんじゃないかと思う。個々のキャラクターから衣装まで、ずいぶんと洒落たかんじになっている。それから、人間の描き方や最後のスーパーマーケットなどダールっぽいところもあるのだけれど、基本的にはそうしたダール作品特有の風刺やアイロニーのテイストは控え目に、あくまで「大人になりきれない男」の話にしているところが監督の個性かな、と。ウェス・アンダーソンはそんなに知らないんだけれどね。

主役の父さんキツネの声をあてたジョージ・クルーニーの話し方は好み。「妊娠したの」「ハッ!」の間合いがよいねえ。いつ出てくるかなと楽しみにしていたジャーヴィス・コッカーはモロだったのですぐわかりました。彼の歌とそれにあわせたアニメーションは素晴らしかった。


ウォレスとグルミット」シリーズの短編4本

言わずと知れたクレイアニメの人気シリーズ。

1本目が一番新しい「ベーカリー街の悪夢」だったのだが、これちょっと微妙でしたねえ。一緒に行った友人も首を傾げてたし。このシリーズをちゃんと観たのは初めてだったのでキャラクターのこととかよく知らなかったんだけど、おそらくウォレスって本来は「ダメダメだけど憎めない」主人公なんだと思うのです。が、ここでのウォレスはほんとにただダメなだけで「憎めない」の部分がなくて、ちょっと腹立ってしまった。相棒のグルミットは「タンタンの冒険」のスノーウィー以上によくできたワンちゃんで可愛いのだけれどね……。映像もたいへん豪華ではあるんだが今一つ熱くなれずでした。

その後の3本(「チーズ・ホリデイ」「ペンギンに気をつけろ!」「危機一髪!」)はどれも素晴らしかったのだけれど、やはり第一印象の悪さは拭いがたく、結局ウォレスは好きになれなかった。たぶん「ベーカリー街の悪夢」が最後だったらまた違う感想を抱いたのでしょうが。一番のお気に入りは「チーズ・ホリデイ」かな。あんな木を切って組み立てただけでなんでそんな立派なロケットができんのよ!とツッコミながら観るのが楽しい。それに何より「お月様はチーズでできてる」って発想に眠っていた子ども心がくすぐられた。チーズを切り取るシーンにはなぜか無性に感動してしまったもの。最後の、ロボットの夢を一度破り捨てておいてもっかい手を差しのべる優しさも好き。


「屋根裏のポムネンカ」

最後はチェコ発のストップモーションアニメ。いかにもチェコっぽい、独特で不思議な空気感の作品だなあと思った(完全に勝手なイメージで言ってますが)。屋根裏部屋の人形やおもちゃたちが人格をもって動き出すというチェコトイストーリーとも言うべき内容。

まあ、「可愛い女の子が悪の帝王に連れ去られて仲間が助けにいく」という話そのものは「そういうのもういいかなあ」ってかんじで(さすがに何のひねりもなくやるのはちょっと古い気がしますな……)、75分のわりに長く感じてしまったり、人間パートいるのかこれと思ったり、最後の時計が何なのかよくわかんなかったりと、十分に楽しめたとは言いがたいのだけれど、この映画の魅力はあくまで、枕が雲になったりその中の綿が雪になったりという映像表現のこだわりにあるのだよね。屋根裏部屋という舞台設定をきっちり活用する技には感嘆いたしました。