カンパニー・メン

や、悪くない。悪くないんだけど、もっといろいろできたよなー、余白いっぱいあるよなー、いや悪くないんだけど、という微妙な感想になってしまった。

リーマンショック後の不景気に突然会社をリストラされてしまった人々の苦闘を描くこのヒューマンドラマは、予告からして派手さはないが、細やかなつくりで全体にパリッとした清潔感がある。主人公たちがそれぞれ仕事へ向かうべく身支度を整える冒頭のシークエンスは、ロジャー・ディーキンスによる白みが美しい撮影(もしやと思ったらやっぱりディーキンス仕事!さすがの出来!)の力もありシャキッと締まっているし、ベン・アフレックトミー・リー・ジョーンズクリス・クーパー、そしてケヴィン・コスナーという豪華キャストもそれぞれいい仕事をしてる。地味だけれども丁寧に語る、よい映画だと思う。それでも、最初に書いたように食い足りなさを感じてしまったのは、結局物語がベン・アフレック演じる主人公ボビーの再生のドラマのみに終始してしまい、トミー・リー演じるジーンとクリス・クーパー演じるフィルのエピソードがそれに有機的に絡んでこなかったということに尽きる。

いや、だって単純に、せっかく年齢や状況の異なる三者を揃えたなら、誰か一人の物語に焦点を絞るより、三者それぞれの立場から社会を切り取り、三つを一つに収斂していくほうがいいではないか。ボビーもジーンもフィルも、同じ会社で働いていて解雇されるのだけど、状況はそれぞれでまったく違う。例えば、ジーンは幹部クラスなので、解雇されても生活は保障されるけど、ボビーやフィルにはまだまだお金のかかる子どもがいて、家族がやっていくには自分が働かなくちゃいけない。とはいえ、ボビーはまだ30代だから、選り好みしなければ仕事はある(選り好みするんだけどね)。一方で、フィルは年齢が年齢なだけに(還暦間近くらい?)なかなか再就職先は見つからない。こういう違いが何を生み、どういう問題を浮き彫りにするのか。そしてその三つの物語がどう繋がってくるのか。そこをこそ私は見たかった。主人公の物語にすべてが集約され、他の二人のエピソードが個人のレベルで終わってしまうのはもったいない。

私は特にボビーとフィルとジーンの三人がどう絡んでくるかに期待していたので、この繋がりの薄さは残念だった。まあ、繋がれないことが現代の悲劇だ、ということを描いているとも言えるけど、一方でボビーとケヴィン・コスナー演じる義兄ジャックとの関係や職安の仲間たちの友情など、誰かと繋がることが救いになってることも確実にあるわけで、そこをもっと踏み込んで描いてほしい。

とはいえ、ボビーが失業を機に自分を見つめ直し再出発をきる物語としてはおもしろかった。オーソドックスでアメリカらしい成長のドラマで、ベタなんだけど、演じるベン・アフレックの力もあって楽しめる。ベンアフの弛緩気味の演技は評価が高くないが(口を閉じてシャキッとしろ!と思ってる人はきっと多い)、私はあれはあれで味があってけっこう好きなのだ。妙なプライドがあって、大人になりきれていない、言ってみればちょっと「めんどくさい」男の、そのめんどくささを、あの何とも言えぬ表情で絶妙に捉えている。「ザ・タウン」の主人公もちょっとめんどくさかったけど、彼はそういう役がうまいのだと思う。めんどくささを「男のロマン」に転じさせるこなとなく、めんどくさいままに表現するのってたぶん至難の技。あの微妙さはなかなか出せない。

他のキャストも役柄にぴったりあっていて、説明がなくても見ればどんなキャラクターかわかる、ばっちりの配役。特にクリス・クーパーの「クビにされたらオフィスで銃ぶっぱなすぞ」発言のリアリティにはある意味震えた。やりそうだから。冗談に聞こえないから。顔怖いから。キャストがみんないい役についているからこそ、ベンアフの映画にしないでみんなの映画にしてほしかったのだけどな。

ということで、いろいろやり残してることが多いように思えて、物足りなく感じたけど、いいところも少なくなかった。じわじわと染みる映画ではある。