ボーン・アイデンティティー

マット・デイモンが好きですと言っておきながら今まで観ていなかった彼の代表作「ボーン」シリーズをこの前ようやく観ました。シリーズを総括する形で3作まとめて感想を書こうと思ったんだけど、アイデンティティーが思いのほか長くなって力尽きた。とはいえ、いつもよりは短め。

シリーズ一作目。監督はダグ・リーマン。銃弾で負傷しマルセイユ沖を漂っていた男は記憶をなくしていた。何ヵ国語もの言葉を操り、武術に長けたこの男はいったい何者なのか――

んーー、おもしろかったんだけど、何かもう一押しほしかった。マット・デイモンが「俺、誰なんだろ」と心の中ではオロオロしながらキレのあるアクションを繰り出していく様は素直に楽しい。大爆発やドンパチの非現実的な派手さ(これも楽しいけども)を排除したリアルなアクションを見せるという姿勢が一貫しているのもいい。でも、なんというか、観ていてあまり「新鮮さ」を感じなくて、そしてそれを感じられないとなんかちょっと物足りない映画のように思えた。いわゆる「ネタ」は観る前からわかっていたし、ちょっと前にも似たような映画があったり(元ネタはむしろ「ボーン」だけど)……マット・デイモンがこういうヒーロー役を演じることに新しさというかリアルタイムのフレッシュな驚きを感じるのも、彼が「ジェイソン・ボーンを演じた」というキャリアを前提として仕事をしている今だと難しい。でも、この映画はそういう「新鮮さ」を感じられるか否かがけっこう重要なのではと思う。だから、なんとなく何かが足りないかんじがした。

でも結局のところ、演出があまり好みじゃなかっただけかなという気もする。ずっとまったりゆったりしたテンポで、もうちょっとスピードアップしないかなと観てて思った。あと脚本がだいぶざっくりした作りで、それは別にいいんだけど、そのざっくり感を意識させずにねじ伏せていく勢いやパワーがもっとほしかった。ダグ・リーマン作品は初めて観たんだけど、イマイチ相性が合わないんだろうか。もうちょいタイトに締め上げてほしいのだけど。

いやしかし、つまらなかったわけじゃない。実際けっこう楽しかった。役者陣はみんな実力派で、ブライアン・コックスクリス・クーパー、クライブ・オーウェンジュリア・スタイルズ……とそれぞれがそれぞれの持ち場でいい仕事をしている。そう、この映画は各人が自分の持ち場でしっかり動いてるところがいいんだよね。

全体に手作り感があって、規模がコンパクトなのもいい。ド派手なアクション映画だと、観る側が完全に与えられるポジション、「エンターテイメントを提供される」立場だけど、これくらい一人一人の人間によって映画が動いているというのがわかりやすく伝わってくると、観る側も映画の中に入り込みやすいと思う。外から眺めるんじゃなくて内側から見てしまうような感覚を味わえるというか。匿名性を持つ主人公、しかも演じるマット・デイモンが親しみやすいルックスをしているということで、観る側が自分を主人公に置き換えて観ることができる。

マット・デイモンのアクションはもちろん楽しくて、手近にあるものを活用していくアイディアもよかった。大使館に入ってから脱出するまでの流れが好き。マットは一つ一つの所作がきれいだね。


ちょいと中途半端だけど、元は3つまとめようとしてたものなのでこのへんで。スプレマシーとアルティメイタムはまとめるかもしれません。最後にシリーズ全体の感想を書きますね。