【ライブレポ】Yuck@渋谷duo music exchange

9月15日、渋谷duo music exchangeで行われたYuckの初来日公演に行ってまいりました。

Cajun Dance Partyのダニエルくんとマックスくんによる新バンドということで、ずいぶん前からそこそこ知名度は高かったですよね。セルフタイトルのファーストアルバムが今年の2月だかに本国でリリースされて、日本でも輸入盤がけっこう売れたんじゃないでしょうか。ツイッターでもよく話題になってたし、春頃にはもうインディー好きの間でかなり知られた存在になってましたね。そしてその人気に押されて、9月7日にはようやく日本盤(これがボートラ6曲つきという!買いたくなるやないの……)が発売、さらに初の日本単独公演と繋がってきました。


当日、会場に着いたのは5時半くらい。先にTシャツ買おうかなーと思ってたんですが、売ってなかった。うーむ残念。軽く腹ごしらえしてから6時すぎに会場入り。整理番号がかなり後ろだったので、そんなに前にはいけなかったんだけど、ちょうどあのduoの柱の横、左のほうに陣取りました。客層は大学生とか、私とそんなに年の変わらない人たちが多かったです。メガネ男子二人組も見かけたよ。

定刻少し過ぎたところで照明が落ちて、メンバーがステージへ。アフロヘアーが特徴的なドラムのジョニーくん(なんかデカい、いろいろと)が後ろにどっしり構え、こちらから見て右側にギターのマックスくん(彼の眉毛とお父さんぽいルックス好き!)、中央に日本人メンバーでベースのマリコさん(分厚い黒髪とクールな佇まいが素敵)、そして左にダニエルくん(あらためて見るとイケメン)。なんと、ダニエルくん目の前じゃないか!偶然にもいいポジション取りをしていたらしい。目の悪い私でも顔がはっきり見える……。

ちなみにこの、ギターとボーカルが両サイド、ベースがセンターという立ち位置は、90'sオルタナでは基本スタイルなんだそうですね。この情報からもわかるけど、なんというか、漂わせる空気からしてモロに「90年代」(音楽雑誌に載ってるあの時代のバンドの写真のような、まさにそんなかんじ!)で、ちょっと笑ってしまいました。「あーこれが今のダニエルくんの、彼らのモードなんだなあ」というのが非常にわかりやすい。でも、そのTHE90年代な佇まいも懐古的なものでなくて(懐古するも何も!な年齢だしな!)、「あの時代」の音楽への無邪気な憧れとリスペクトと、それを今自分たちの手でやるんだという気概が見えるのでいい。

挨拶などはなく演奏開始。例のごとくセットリストはまったく覚えてないんですが、今回はいつもよりひどくて、1曲目すらどの曲か自信がないという(曲名把握してるの2曲くらいしかなかった)。たぶんHoling Outではないかな。たぶん。ダニエルはコードを押さえる左手の指とかき鳴らす右腕の肘から下と口以外ほとんど動かず、一点を見据えて歌っていました。目の前にいるので、目線をけっこう感じます。その目力がものすごくて、ドキッとした。これはときめきのドキッというより、心臓をガシッと掴まれてドキッとするような、生々しいかんじ。ケイジャン時代にもサマソニでライブを見たことがあったんだけど、そのときはそんなにドキドキしなかったのは、遠くからぼんやり見ていたからかな。今回は間近で見ていたので、彼の人を惹き付ける才能を強く感じました。あの目で見られたら、そりゃあねえ(ため息)。ああ、この人は特別な人なんだな……と急に思っちゃったりして。

音のほうは、USオルタナの影響を感じさせるノイジーサウンドの中に、メロディのよさや若さ、瑞々しさがキラリと光っているのが魅力のCD音源よりもノイズ5割増しといったかんじで、彼らが今鳴らしたい音というものがアルバム以上に明確に提示されていたと思う。サウンドのオリジナルを明らかにしながら、それを彼らが今鳴らす楽しさを見せ/聴かせてくれる。私は彼らのこういう無邪気さがすごく好きなんですね。サウンド自体は何ら新しくないし、既存ジャンルの独自の掛け合わせによる発明なんかからも無縁だけど、こういう音楽を愛していて、それを自分でもやってみたいんだという無邪気な姿勢。ケイジャン時代のインタビューで、ダニエルが「ヴェルヴェッツで最高じゃない?」「『マーキー・ムーン』って最高じゃない?」と楽しそうに話していた(実際はこんなじゃないけど、テンションとしてね……)のが私の中で強く印象に残っていて、彼は純粋にインディーミュージック好きとして音楽をやっているんだなー、と当たり前といえばそうかもしれないけど、ライブでもそれはよく伝わってきた。

で、ちょっとびっくりしたことなんだけど、リードギターのマックスがすごくいい仕事をしていたんですね。エフェクターを操作してギターノイズの渦を作っていくんですが、まさかあんなにかっこいい音を出すとは思わなかった(失礼な話だね)。マックスは元ケイジャンのメンバーで、そこではベース担当だったけど、ケイジャンにはロビー・スターンという才能あるギタリストがいて、はっきり言ってあのバンドはロビーとダニエルのバンドというイメージが強かったし、他のメンバーはあまり目立たなかった。そんなケイジャンの中では地味な立ち位置だった(のはあくまでこちらから見て、だが)マックスがギターで大活躍する姿っていうのは、やっぱり想像していなかったのです。でも今回ライブを見て、このYuckはマックスが中心、殊にサウンド面においてはマックスのバンドなのかもなあと思いました。ライブを見ると、明らかにYuckサウンドを率いてるのはマックスなんです。これはCD音源だけではわからないことだと思うし、今回のライブで一番の発見はそれだった。Operationではボーカルもとってましたよ。この曲、パンキッシュでかっこいいよね。アルバムの中でもちょっと毛色の違う曲で好きです。

MCは少なめ。マックスが中心になって喋って(「この人、熊さんでーす」)、ジョニーが合いの手的に何か言っていく(「熊さんじゃねーよ、猫さんだよ!」実際にあったやりとり、なんだそれ笑)かんじ。ダニエルはたまにボソッとサンキューって言ったり。マリコ嬢はほぼ喋ってなかった。

演奏も淡々としており、アルバム収録曲ほぼすべてを間髪入れずに披露していきます(ゆえの公演時間1時間ちょいという短さ)。これといった演出もなく、ボーカルはまったくオーディエンスを煽らず、だけど会場の空気は静かに、しかし確かに熱を帯びていく、そんなかんじだった。箱の大きさもちょうどよかったと思います。日本盤のボートラからも2曲ほど演奏し、マリコ嬢ボーカルによるはっぴいえんどの「夏なんです」カバーもやってくれました。オレンジの淡い照明が、「ギンギンギラギラの夏」というより「残暑」を思わせていいかんじ。ちなみに、私つい最近まで日本人メンバーの存在を忘れておりまして、ずっと「この子イギリス人なのに日本語の発音パーフェクトじゃん!」って思ってました。バカですね。

アンコール含めた最終曲はRubber。最後はノイズの洪水を作り、残響とともに去っていきました。ダニエルは去り際までかっこよかったです。軽く総括すると、バンドの魅力がしっかり表れていて、アルバムを聴くだけではわからなかった新しい発見もある、楽しいライブでした。初来日のタイミングであの大きさの箱で見られてよかった。今回は東京オンリーだったから、また来年にでもツアーしてね。そして夏フェスにも。マックスが「日本に来られて嬉しい。滞在期間が短すぎるからまた来たい」って言ってた気がするから、再来日はたぶんすぐあると思います。