エリックを探して/ユージュアル・サスペクツ
期末レポートをやっつけた後にDVDで観た2本の映画について簡単に。
「エリックを探して」
例えば、ストーリーや作品の雰囲気は全然違うけれど、ダメなおじさん(離婚歴あり、子あり)が人生をやり直す映画としては「フル・モンティ」なんかとも通じるものがある、「いっちょやったるで!」精神に溢れたイギリス北部(マンチェスター)発の素敵なコメディ作品。
ぬけるように青い空をバックにおじさん2人がジャンプしているポスターから、カラッと明るく元気な映画を想像していたんだけど、実際はもっと深刻な内容で、しかしだからこそラストにはとても爽やかな後味が残った。
イギリス北部、それもマンチェスターというと、南部のロンドン以上に寒々しい灰色の風景が思い浮かぶし、ブリット・ポップだなんだという時代にはマンチェスター出身の労働者階級バンド・オアシスのギャラガー兄弟が南部中産階級バンドのブラーによく噛み付いたりしていたもんだから、経済的にはあまり豊かでなくて野郎が多いイメージがあるんだけれど、それは私の勝手な想像だし、もし昔はそうであっても今はどうなんだろうと思っていたのだが、本作を観るとこのイメージもそれほど間違っていないのかなあと感じた。
本作の主人公、エリックほど問題を抱えていなくても、マンチェスターにはきっとこういう人たちがたくさんいるのだと思う。妻とは別れ、子供は学校に行かず怪しい連中とつるんでいる。うだつのあがらない毎日の少ない楽しみは仲間たちと酒を飲みながらサッカーを観ること。しかし試合を観に行くのにも今では金がかかって、まるで応援するチームから搾取されているよう。この作品はこういう人たちに向けた人生賛歌といえるのではないだろうか。暮らしは楽じゃない。問題は山積み。それでもあなたには仲間がいる。自分から動けば人生はやり直すことができる。たとえ50を過ぎたようなおじさんであっても!
原案を考えたのは、90年代にマンチェスター・ユナイテッドで活躍した”キング”ことエリック・カントナ。本人役で出演も果たし製作総指揮まで務めているということで、カントナのマンチェスター愛の大きさが窺える。上記のように、「金がなければ試合にも行けない(エリックの仲間たちはみんなでバスを借りて試合に行く)、チームは庶民のサッカーファンから搾取してる」と英国サッカーの現状について苦言を呈したセリフのある映画を製作できるってすごいと思う。カントナのことはそれほど知っているわけじゃないんだけれど、本作を観てるとマンチェスターの人々に対する愛情の眼差しをすごく感じる。
それからやっぱり、私は英国映画におけるサッカーの描写がすごく好き。どこの国の人だろうとたいていは楽な生活をしていないし、仕事はしんどいし、嫌なこともいっぱいあるし、それでも何か楽しみを見つけて毎日乗り切ってくわけだけど、イギリスの男たちにとってはそれが酒とサッカーとユーモアなんだよね。本作でも、パブにエリックの仲間たちが集まっている場面を見るとそのことがよくわかる。
すでに書いたように、本作は「人生、問題山積みでもやり直せる、いっちょやったれ!」という内容なんだけれど、それは単に楽天的な発想でそういうことを言ってるんじゃなくて、弱さを踏まえた上での強さからきているのがいい。エリックはずっと昔に大きな過ちを犯していて、それは当時の妻だったリリーや娘のことを考えれば簡単に許されることじゃないんだけど、それを自覚してじゃあどうするかというその後の展開がとても誠実だった。弱さを認めた上で、弱いから許してというんじゃなく前進しようとしなければ、強さはきっと生まれないんだよね。惨めとタフネスがしっかり同居している。情けなくてバカな人間の、それでも前に進んでいく強さを描く英国映画の(というか英国文化の)精神が好き。
そして一番素晴らしいなあと思ったのは、ダメなおじさんの話で、男たちの結束を描いていながら、まったくマッチョな匂いがしないこと。エリック最愛の人、リリーがとても凛とした、自立した女性として描かれている。そういや娘も子供を育てながら大学で勉学に励む素敵なお嬢さんだった。
ライオンハートって、まさにこの映画みたいなものを言うんじゃないかね。
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「ユージュアル・サスペクツ」
「セブン」「ファイト・クラブ」などと並んで「大どんでん返し」映画として紹介されることが多い作品。「まっさらな気持ちで観たい、騙されたい!」という未見の方は、絶対何の情報も入れずに観たほうがいいと思います。ネタバレ避けてる感想・レビューでも、読むとなんとなくあのトリックは想像ついてしまうから(これがすでに余計な発言)。ということで以下大きくネタバレはしていませんが、未見の方にはスルー推奨です。
「裏社会を牛耳る伝説の男、カイザー・ソゼとは一体誰か?」という謎に関しては、観る前からなんとなく想像がついてしまっていたんだけれど、それでも後半は「どうなるんだ、どうなるんだ?」とハラハラしながら観ていたし、何よりこれを正面きってやりぬいたってことがこの作品のすごいところなんだと思う。もっと話の構造を複雑にしたり、小さいトラップを何個も仕掛けたりして、トリックをわかりづらくすることもできたと思うんだけど、そうじゃなくて実はこれ真正面から見せているんだよね。これは勇気と自信がないとできない。試写のときとか公開直後とか、観客の反応見て監督・脚本ともに相当なドヤ顔になっていたのではないかと思う。
ブライアン・シンガーの監督作は初めて観たんだけれど、とりあえずこの作品に関してはわかりやすいことをきっちりやるんだなあという印象。演出がはっきりしていて見やすかったし、尋問と回想を交互に見せてゆくことで映画にリズムが生まれ、最初から最後まで緊張感が途切れなかった。そして尋問シーンでのケヴィン・スペイシーの演技がさすが。彼がいなかったらあれだけのテンションを保つことはできなかっただろう。そしたらネタもわれやすくなっていただろうし、作品の魅力も半減だったと思う。巧みな脚本と同じくらい、スペイシー先生の迫真の演技にも支えられている作品ではないでしょうか。
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