パニック・ルーム

デイヴィッド・フィンチャー監督の2002年の作品、「パニック・ルーム」を観た。うまく感想文としてまとまらないので、雑感だけちょこちょこと。

フィンチャーといえば、常に映像技術面での挑戦を怠らず、画づくりに非常にこだわる監督として有名だが、今回観賞した「パニック・ルーム」は、そんな彼のフィルモグラフィの中でも特に「稀代の映像派監督」らしさがはっきり表れた作品だと思う。というのも、本作からは、フィンチャーの映像技術への興味関心や斬新かつ美しい画づくりへの挑戦意欲が、他の作品以上にストレートに強く感じられるからだ。おそらく本作は、映像面での実験作/挑戦作的な位置づけで撮られたのではないだろうか。だから、どのカットもかなり意欲的に作り込まれており、結果として映像派監督としてのフィンチャーの魅力がたっぷり詰まった作品になった。

何といっても、大きな屋敷内を動き回るカメラがすごい。壁を抜け、階段を滑るように降り、床を這う、あのカメラ。特に、寝室のベッドから玄関口まで、掃除機の巻き取られる電源コードのようにシュルシュルとカメラがやってくるシーンは圧巻。対象からひいたり対象に寄ったりしながら動くので、映像に不思議な立体感があっておもしろい。もちろん、実際に一台のカメラで一気に寝室から玄関まで撮っているはずはなく、どこかでCGを使っているのだが、それが気にならないほどなめらかで美しい流れのある映像に仕上がっている。このカメラの動きは、「ファイト・クラブ」冒頭の「神経から口腔内へ」ひいていく画を連続で撮ったようなかんじだ。

役者陣は、屋敷の家主であるジョディ・フォスタークリステン・スチュワート母娘より、悪役のジャレッド・レトフォレスト・ウィテカーのほうが印象に残った。ジャレッドは「ファイト・クラブ」でせっかくの美しい顔をぐちゃぐちゃにされて可哀想だったが、本作でもまた顔を傷つけられていて、さすがに笑った。かなり大げさな小悪党っぷりがナイス。ラウールの発音の仕方は最早ギャグだよ。フォレスト・ウィテカーは、正直おいしすぎる役。あれでかっこよく見えないわけがない。ぱっと見ちょっと怖そうだけど、笑うといい人そうな鶴瓶師匠フェイスだから尚更だ。



題材こそ地味ではあるが、映像面ではフィンチャーらしさが光った秀作だと思う。どのカットもスタイリッシュで緻密に作り込まれており、フィンチャー特有の暗い色調の画面の美しさが存分に生かされている。のびのびとやりたいこと、新しいことに挑戦するフィンチャーの姿勢がとてもよく表れているのにも好感をもつ。フィンチャーのフィルモグラフィの中で一番といっていいくらい目立たない作品だが、決して出来が悪いわけではなく、むしろ緻密で完成度が高い。「セブン」や「ファイト・クラブ」のような大傑作もいいけど、同時にこういう作品も撮っているから、フィンチャーはおもしろいんだと思う。