くたばれ!ユナイテッド サッカー万歳!

ハサミさんライブのときにお借りしたDVD群の中から、先日(金曜日か?)はトム・フーパー監督の「くたばれ!ユナイテッド」を観ました。今年のアカデミー賞有力候補である、同監督作「英国王のスピーチ」がいよいよ日本公開間近ということもあり、予習のつもりで観賞してみましたが、これはますます英国王への期待が高まる非常にキュートな良作でありました。優等生的なつくりではあるけれど、固くなくかわいらしい部分もあって、何より私の大好きな「英国」の薫り漂う上品な作品です。

舞台は1970年代のイギリス。ストーリーは実話を基にしており、イングランドフットボール界に偉大な監督として名を残しているブライアン・クラフ(マイケル・シーン)とその相棒ピーター・テイラー(ティモシー・スポール)の友情が描かれています。このクラフとテイラーのキャラクター、関係がいかにもすぎて笑ってしまう。クラフは野心家で自信家でビッグマウスな上に毒舌だが、その強い闘志のおかげでチームを勝利へ、頂点へ導く力をもっている。一方テイラーは物腰柔らかで大人しいが、選手を見る目に長けているアシスタント・コーチ。二人ともお互いがいなければ「名将」として機能しないのに、クラフの野心、執着心のために仲違いし、そこでクラフは初めてテイラーの存在の大きさを知る。とにかくもうこの二人の関係を見ているとむず痒くなってくるというか、もはや喧嘩したカップルが仲直りする様子を見ているようだった。こんな関係ってよく見るよね。俺様と優しい相棒。自信満々なビッグマウスっていかにも英国的と思ってしまうな。

クラフとテイラーは、指揮を執るチーム、ダービーがまだプレミアリーグ2部の弱小だったときに、名将ドン・レヴィー率いるプレミア有数の名門チーム、リーズ・ユナイテッド(タイトルのユナイテッドはこれ)と戦うことになり、クラフは名将・名門との一戦に胸膨らませ好ゲームを期待したのだが、レヴィーは冷たくリーズの選手達は反則をしまくり、にも関わらずガードは出ずダービーは大敗してしまう。このときの経験が、クラフの闘争心に火をつけ、ダービーを一部昇格、さらにはリーグ優勝させるにまで至るのだが、そのリーズとレヴィーに対する異常な執念ゆえに、遂には「自分が監督として性根の腐ったリーズを叩き直してやる」とまで思うようになり、テイラーとの仲違いに発展していく。フーパー監督はこの過程を非常にわかりやすく無理なく説明しています。映画づくりとしては特に奇抜なことはしておらず、どちらかといえば王道で、一つのカットで必要な説明をきっちりこなしていくのがうまい監督。そんな印象。基本的な映画づくりのやり方をしっかり心得てる人なのだろうと思う。派手だったり古臭かったりすることなく、趣味よくお茶目なのもまたいいなあ。

英国王のスピーチ」も実話、それもイギリス国民であれば誰もが知っている人物の物語です。こういう題材をうまく映画にするのは簡単ではないけれど、フーパー監督なら事実にしっかり鋭く切り込んでユーモアを交えながら品のいい作品に仕上げてくるだろうなあと、本作を観る限りでは思う。

また、本作でいいなあと思ったのは映画の中の空気がしっかり70年代イギリスのものになっていること。70年代イギリスなんて行ったことないけれど、テレビや雑誌で見るあの雰囲気が見事に再現されていて、映像も古いフィルムで撮影されたようなかんじなっているところが素敵。ドキュメンタリーかと思うほど映像の質感がリアルにあの時代のものになっている。髪形やなんかもちゃんと時代交渉されており、その点でも英国王への期待が高まるし、イギリスらしさをチャーミングにプレゼンテーションしているのが私にとっては何より嬉しい。天気がいつも雨か空にぶら下がる雲が垂れ落ちてきそうなほどの曇天なのだ。一方、観光地のブライトンはやたらと晴れていて、そんな陽気に恵まれた土地に来てクラフが放つ一言、「ほとんどフランスじゃないか!」が最高すぎます。

マイケル・シーンの演技がやたら大きいのが少し気になったが、彼の演技はいつもこんなかんじなのでしょうか。それともクラフが普段からこういう大げさな喋り方をしていたのか。ティモシー・スポールはモルモットみたいな顔してるな。彼は英国王にもチャーチル役で出演しているみたい。マイケル・シーンティモシー・スポールという特に美形でもないおっさん二人がきゃーって抱き合ってる姿が何だか愛らしく見えてしまうので、ある一定の層のハートは掴みそうな作品だとも思った。

英国王のスピーチ」はいよいよ今週末、26日から公開です。この作品を事前に観ておくのはとてもいい予習になりそう。というわけで、今回もvertigoさん素敵な作品を貸していただいてありがとうございました!

※個人的なメモ。「スナッチ」のスティーブン・グレアムくんがリーズの選手役で出演してました。「くん」付けするような年齢じゃないんだけど、彼はどうしてもそう呼びたくなる、永遠の「弟顔」だと思う。ガイ・リッチーも彼の顔が気に入って、スカウトしたんだって。このイギリス人ぽい犬顔が私はすごく好きなのです。