ダージリン急行

昨日は「ダージリン急行」という映画を観ました。非常に大雑把にこの作品を説明すると、「歪な家族関係の修復を図る暖かなヒューマンコメディ」といったかんじでしょうか。

いろいろな場面で何度か書いていることなんだけど、こういう「暖かみのある」「ポップな」「コメディ」って、時に雰囲気だけで終わってしまいがちというか、暖かいというより「ぬるい」と感じてしまうこともけっこうあります。まあ私は、去年のベスト映画が「第9地区」で、ガイ・リッチーが最愛の監督という人間なので、単純にこういうジャンルがそんなに好きではないだけなのかもしれませんが。でも一方で、去年の映画ランキング2位はジェイソン・ライトマン監督の「マイレージ、マイライフ」だったりします。ライトマン作品もよく「暖かみのある」「ポップな」「コメディ」と形容されますよね。でもライトマン監督はファンといえるくらい大好きなんです。それは何故か。それは、映画ランキングの記事にも書いたとおり、正直で、時には物事の核心をつく鋭い言葉が飛び出すほど深みがあって、ぬるくならないからだと思います。つまりこういうヒューマンコメディを観るときの自分の中でのポイントは、雰囲気だけのぬるい作品ではないか、ということです。

そうした点から見てみると、この「ダージリン急行」はどうだったか。最初は正直ちょっと退屈でした。なんだか掴み所がないし、特に盛り上がるポイントもない。でも作品全体を通して、どこか拭いされない孤独感であるとか、哀しみとも寂しさともとれないような人間の心の翳みたいなものが、描かれるというよりもむしろ一貫したムードとして伝わってきて、最後には観る前より一段深いところで作品を味わっているような(うまく言葉になっていませんが)、結果的にはなかなかよい作品でした。

この作品でドラマティックな場面は一つもありません。お互いに心を開きあえない3兄弟がインドへ心の旅に出て、喧嘩したり寺をまわったりするだけです。いや実際にはけっこう大きな出来事も起こったりするんだけど、それを強調して描くことをしていないと言うほうが正しいか。基本的には常に同じテンションで、微小な上がり下がりはあってもほぼ平坦なストーリー展開をしていきます。でも、平坦でのっぺりしているからこそ、そこで描かれる事柄は主人公3兄弟にとって本当に身近なものに感じられるような気がします。

この作品を貫くテーマというか、ムードの一つに、「生と死」が挙げられると思います。インドという舞台そのものが私達や欧米人にとってはとてもスピリチュアルなところだし、実際に生や死にまつわる出来事が描かれてもいます。だけれども、やはりそれも劇的に描くということはしていない。基本的なトーンは他のシーンと変わりありません。でもだからこそ、「生と死」は3兄弟の背景に流れる一貫したムードとして捉えられるというか、日常的で心に定着したものである感じられるというか。つまり彼らの心に大きく瞬間的な衝撃を与えたのではなく、常に彼らの心の奥深くに沈殿しているものなんだろう、と思うのです。それが先述したような、翳を生んでいるのかなあと。

何度も言うように、この作品はテンションの上がり下がりを折れ線グラフにしたらほとんど真っ直ぐになっちゃう(しかも低いところで)ようなお話なんだけど、でも最後にちょっとだけ上がるのですよね。むしろ最後にこそ「はじまり」が描かれているというか。これからが新しい旅なんだと告げて終わる。インド旅行に出る前は、言わば停滞期です。3兄弟の心は癒されないまま。そして作品のラストから、新たな、そして本当の意味での心の旅が始まる。だからこの作品は、停滞期から新たな旅へ出るまでの過渡期(厳密にはこの言葉を使うのは間違いかもしれないが)を描いた作品なのだと思います。

最後に、映像や音楽、キャストについて。映像は車窓を使った横にスライドするカメラワークを多用していましたね。ラスト手前では、そのカメラワークを使って登場人物達の様子をなぞるように映し出していてよかったです。また、インドらしい色彩やデザインも非常にユニークでした。音楽も、ちょっと懐かしさを感じさせる曲が多くて、特に列車に飛び乗るスロー映像と合わせる場面は遥かな旅路を感じさせました。3兄弟を演じたオーウェン・ウィルソンエイドリアン・ブロディジェイソン・シュワルツマンの演技は、兄弟のギスギスした関係が空気として伝わるかんじでよかったです。あと何気ない役で、ナタリー・ポートマンビル・マーレイが出てましたね(笑)。コメディ作品といっても、声に出して笑っちゃう場面はなくて、三男ジャック(シュワルツマン)の小説やベルトのやり取りなど、小さなところでクスッとくるような笑いが多かったです。

なんだかまとまりなくなっちゃったけど、これで終わり(笑)。しっかり文章をしめられるようにこれから努力します。