マッチポイント

年末に「人生万歳!」を観てから、ウディ・アレン愛にまた火がつき、今年はウディ作品を掘っていく1年にしようかなと思ったりしてます。作品数が多いので時間がかかるだろうけど、いずれはコンプリートしたい。そこで昨日はまず2005年のウディ監督作「マッチポイント」を観賞しました。

これはウディが、ホームタウン・NYを離れ、初めてロンドンを舞台に撮影した作品。ウディ作品というと、どうしようもない恋愛とウディ独特の悲哀のユーモアを軸にしたコメディのイメージが(私の中では)強いけど、これは英国上流階級を舞台にした愛欲のサスペンスで、ちょっといつものウディ作品とは趣が違う(あくまで私の中で、ですけど)。とはいえ、やはり作品のそこかしこにウディらしさが詰まっている。例えばウィットに富んだ会話。いつもの神経質なインテリおやじのへ理屈じみた弾丸トークではないものの、上流階級らしいさりげない知性を感じさせる言葉で会話が構成されている。あるいは街の撮り方。NYとロンドンでは街の雰囲気がかなり違うと思うのだが、ウディはどちらの街も同じような撮り方をしている。例えば主人公クリスとクロエのデートシーンで、ギャラリーを出てから橋の欄干にもたれて二人で佇む様子とか、ウディらしすぎる撮り方でちょっと笑った(NYとロンドンは全然違う街なのに同じかんじがするんだもの)。「橋で佇む二人」の画はほんと大好きよね。「アニー・ホール」にも同じような画があったし。NYでは川の向こうに摩天楼が見えるけど、ロンドンでは…あれは何だろう?国会議事堂かな?ギャラリーから出てくるときも、角度や対象との距離の取り方に「らしさ」が出てるし、恋人たちの背景としてさりげなく街の名所を映し込みながら、その街の匂いを伝えるのがうまい監督だなあと改めて思った。さすが30年以上NYを撮ってきただけある。

この作品ではウディの新たなミューズ、スカーレット・ヨハンソンが主人公クリスを虜にする魅力的なアメリカ美女を演じているんだけど、彼女が怪しい魔性の女っぷりを見せつけるのかと思いきやそれほどでもなく、基本的にひどいのは主人公のほうで、やっぱりウディ作品はダメ男の身勝手さが作品のベースになっているんだなあと思った。それから人生に対する徹底した冷めた視線も。「人生万歳!」の場合、そうした、人生なんてどうなるかわからないものという視点から、「それなら何だってありだ!楽しくいこうじゃないか!」という極めてハッピーな方向にもっていったけど、この作品の場合、それをどんどんシリアスな方向に展開していって笑えない悲劇と人生の不確定さを描いたというかんじ。

ストーリーは丁寧でよく練られており、絶えず緊張感と色気が漂っていて、なかなかよくできたサスペンスだと思うのだけど、一つ気になるのが主人公のとったあの行動。展開としては強引じゃないし動機も十分だけど、あんなに簡単にあれができるのかなあと思うのです。まあ彼はあれができる人だったんですと言われればそれまでだけど、ちょっとあっさりしすぎてたかなと思う。あの行動の前も後もかなり淡々としてるんで、サスペンス特有の糸がピンと張りつめて、ギリギリまで引っ張られて、ぷつっと切れた瞬間の流れ出る狂気と興奮がちょっと足りなかったかなあと感じたり。

でも、「ネットに当たったボールはどちらに落ちるかわからない、相手のコートに落ちれば勝ち、自分のコートに落ちれば負け」というのをキーワードに落としどころをつくるのはうまいと思ったし、ウディ作品に求めるのは悲哀のコメディとうるさく言っている私も楽しめたので、そういうバイアスがなければ普通に楽しめるかなと思いました。

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