ナイト&デイ

トム・クルーズが車から車へ飛び移るだけで、なぜこんなにも笑けてくるのでせうか。「ナイト&デイ」は不思議な映画です。ジェームズ・マンゴールドという、おそらくアクション系ラブコメが自分のフィールドではない(「3時10分〜」も「17歳のカルテ」も未見なので断言できない)監督が作り上げてしまった、何とも奇妙で壮大なロマンス作品です。

これ一般的な評価はどうなんでしょうね、たぶんそんなに高くないよね。興行的にも大成功ではないはずだし、確かにアクションとしてもラブコメとしてもちと微妙な作品ではある。しかし私はこの、どのジャンルでもしっくりこない不思議なところがとても好きだよ。しかもこれコメディ映画としては中途半端なのに、なぜかめちゃめちゃ笑えるんだよ。何だよ、それ。どういうことだよ。そうだよ、トム・クルーズのおかげだよ。

この作品、とにかく主演の2人がいいです。トム・クルーズキャメロン・ディアス。このベタ感。この前時代感。でもこれは絶対に狙った配役でしょう。だってこの2人じゃなかったらこんなに笑えなかったと思うよ。

まずトムちんはね、やっぱりスターだね。宙吊りにされながら「大丈夫!すぐに脱出できるから!」と励ましてくれたり、キャメロンが目覚めると突然海から満面の笑みで魚を持って登場したり。何なんですか、笑い死にさせる気ですか。キャメロンはというと、こちらもヒロインにしては年をとりすぎって言われたりしてるけど、彼女に関しても「あえて」のキャスティングだと思う。きれいなドレスを着てるのに足元はブーツで走り回るし、何回も怪しいクスリを飲まされてるのにめげないし、彼女のパワフルな魅力が前面に押し出されてる。飛行機で鏡に向かって話しかける場面なんかは、逆にあの年齢の女性だからこそできる演技でもあるよね。トムちんとキャメロン、すごく相性がいい。

あと他の役者に触れておくと、サイモン役のポール・ダノがツボだった。「リトル・ミス・サンシャイン」のときと違いすぎて最初誰だかわからなかった(笑)ホール&オーツが好きっていう設定がもう。こういうとこでいちいち笑わすなよ。

それで、この作品で一番おもしろかったというか、不思議だったのは、おもしろそうなアクションシーンが撮れそうなところできまってキャメロンが寝ちゃうっていうアレです。これは一見アクションを撮るのがめんどくさいから省いたようにも見えるけど、でもやっぱり狙ってるのかなぁという気がする。キャメロンが寝てる間に何かものすごくおもしろいこと(何でトムちん宙吊りなの!?とか、どうやってここから脱出したの!?とか)が起きてるはずなのに、それを見せないで進んでいってしまう。これは手抜きというより、一種のチラリズムというか、「プラネット・テラー」における「一巻紛失しました」みたいなもんじゃないかと思った。そんでまたこの寝ぼけキャメロンのわずかな記憶に映り込んでるトムちんが最高に笑えるのですよ。だからこそこの「あえて見せない」がきいてくるよね。でもね、この寝ぼけ手法とCG使いまくりなところからして、マンゴー監督あんまりアクション自体に興味ないのかなとも思いました。

これはアクションやラブコメというには弾け方が足りないし、何と形容したらよいものか悩ましいけれど、一番近いのはロマンス小説だと思うのです。ヒロインがとても力強くてオープンだし、世界の美しい街や美しい島に訪れる乙女映画の要素もある。ある意味、アクション系ラブコメを撮るには真面目すぎる監督だからこそ撮れた異形の映画って気がする。なので、こういうロマンス小説的ありえなさをキャッキャと笑いつつ、愛おしく思える人にはオススメの作品です。