ノーウェアボーイ
一昨日書いた通り、映画「ノーウェアボーイ」の感想。
冒頭の10分、そっけないし唐突な展開。これはジョン・レノンの生い立ちをある程度知らないとストーリー飲み込みづらくないか?と思った。ちょっと不親切。まあ、この作品で描きたいのは、ジョンと彼の生みの母・ジュリアと育ての母・ミミの歪で複雑な関係なので、ジョンがジュリアの家を知るまでの過程はどうでもいいっちゃどうでもいいのよね。描きたいのはその先だから。しかしそれにしたってこの説明不足はちょっと…と思ったし、冒頭から心配になった。
でも心配は無用だったみたい。入りは少し雑だけど描きたい部分に焦点がしっかり定まってるから、中盤・後半のジョンと2人の母の奇妙な関係はとてもよく描かれてるし、この2人の間でジョン・レノンという人間が形作られていく様はダイナミックで瑞々しい。
こういう題材だとありがちな「母さん、どうして僕を捨てたの!」的な家族ドラマの側面ももちろんあるんだけれど、この作品で一番描きたかったのは、ジュリアとミミが全く正反対の魅力をもつ女性であり、2人がジョンに大きな影響を与えたということなんだと思う。ジュリアは華やかで明るく、ジョンにロックンロールを教えた。一方ミミは黒い服ばかり着ていて地味な印象だけど、皮肉屋で、ジョンに鋭い言語感覚を与えた。この作品を観ると、ジョンがジュリアとミミに愛憎入り乱れた複雑な感情を抱きながらも、同時に多大な影響を受けてきたことがわかる。だからこれはある意味マザコンこじらせ系の映画で、特にジュリアとの関係にはただならぬものがある。この特異な環境がジョンを感受性豊かな少年にしたといってもいいし、これはジュリアとミミという2人の女性を巧みにを描き分けながら、いかにして稀代のロックスター「ジョン・レノン」が生まれたのかを彼の少年時代にスポットをあてて描き出した作品なんだと思う。ジョンがロックンロールという表現に向かうようになったのは紛れもなく2人の影響であるし、この作品を観終わったあとに真っ先に感じる「
ロックンロールってかっけー!」という感動は、ジョン自身にとってロックンロールがそういう瑞々しい感動をもったものだったからだろうし、作品もそのことにフォーカスしてるからだろう。ジョンは音楽にこそ自分の居場所を見いだしてきたし、彼のロックンローラーとしての資質を育てたのは紛れもなくジュリアとミミだった。しつこいけど、ここがとても重要だと思う。そして、バンドを組み、ポール・マッカートニーと出会い、本格的に音楽活動を始めるという、この過程の描き方がとてもパワフルでいいんだよね。このパワフルさが物語に勢いを与えて、冒頭で感じた粗さも気にならないようにしてる。
そしてとにかくジョン役を演じたアーロン・ジョンソンがいい!もうこの作品はね、他がどんなに頑張ってもジョン役がダメだとどうにもならないから、めちゃくちゃたいへんな役所だったと思うけど、アーロンくんすごく頑張ってた。顔はそんなに似てないんだけど、50's不良スタイルが様になってるし、まだ初々しさの残る顔だちだから、ジョンのとげとげした衣の内側のピュアネスみたいのを表現できてた。歌ってるところとか皮肉を吐くところもすごくかっこいい。無理に似せようとするんじゃなく、ジョンの表現そのものに近づこうとした感じ。
アーロンくんの作品観たのは初めてなんだけど、イギリスにはこんなすごい若手がいるんだね。2歳年上なだけとは!顔がきれいすぎて動揺しましたよ。これでまた「キック・アス」への期待値があがってしまったので、誰か「キック・アス」酷評してくれませんか(え、結局「キック・アス」オチ…?)。