オーケストラ!

昨日買ったRa Ra Riotはまだ一回しか聴けてないんで、感想はまた土日にでも書きます。とりあえず"Boy"という曲に夢中になってる。

それで今日は、昨日観た映画「オーケストラ!」の感想を書きます。30年前にソ連政府による、楽団からのユダヤ人排斥政策に反対したため、音楽界を追われた天才指揮者・アンドレイがパリの劇場で演奏するチャンスを(むりやり)手に入れ、数々の困難を乗り越えながら楽団員達とともにコンサートを目指すというストーリー。ぶっちゃけたところ、ストーリー展開上苦しいところはいくつもある。まず序盤の展開がうまくいきすぎ。それから結婚式のシーンがよくわからない。パリの劇場側も演奏してくれる楽団を探すのに必死だったり、たまたま音楽好きの大富豪と知り合ったり、交渉役の共産党員・ガブリーロフには思惑があったり…様々な条件が揃わなければ成り立たなかったであろう綱渡りのような話。それでもこの映画はいい映画だと言わざるを得ない。それは、とにかく最後の演奏シーンが素晴らしく、ここにスタッフ、役者全員の全力が注がれているから。強引なストーリーをコメディタッチでテンポをもたせて見せていくことで何とか綱を渡ってみせ、そして最後の演奏シーンへ繋いでいく。すべてはこのコンサートのために。だからこの演奏シーンは本当に素晴らしい。圧巻でした。

私はロシア社会の現状についてはよく知らないけれど、今でもやっぱりロシアに住む人々は閉塞感を抱いているみたい。特にこの作品の登場人物達は、30年前の事件で楽団を追われ、決して豊かではない人々。彼らにとって、30年ぶりに楽団のメンバーが集まってパリでコンサートをひらくというのはとても大きな意味があるんだろう。だからなのか、パリに来てからの彼らのはしゃぎっぷりというか、はちゃめちゃ具合がすごい。これが物語全体をダラダラとメリハリのないものにしてしまっているし、収拾もついていない。だけど逆に、この彼らの熱気が作品全体のテンションを保ち、最後の演奏シーンのとてつもない熱量を生み出してるとも言える。とにかく全員個性的で表情豊か。特にアンドレイの相棒のようなチェリスト・サーシャの表情がいい。再び演奏できる喜びを全員が噛み締める。

この作品にはストーリー上のとても重要な仕掛けがあって、これがまた最後の演奏シーンで本当に大きな役割をするんだな。楽団には唯一ロシアから来たのではない、アンヌ=マリー・ジャケという有名なヴァイオリニストがいて、彼女がソロを弾くのだけれど、この仕掛けが楽団とは何ら関係のないはずであるアンヌ=マリーと、アンドレイ、楽団のメンバー全員を繋ぐ重要な共通項となっていて、そのために彼らは一体となって演奏し、素晴らしい音を奏でることができたんだと思う。そしてアンヌ=マリーはこの演奏に秘められたとても大切な意味を知る。そのときのメラニー・ロラン(アンヌ=マリー役)の表情、動作…この一つ一つが素晴らしく、涙が出てしまう。

あと演奏シーンで共産党員・ガブリーロフが「神様がいると証明してくれ」と言うけれど、これを彼が言うというのは、とても重みがある。それとアンヌ=マリーの育ての親、ギレーヌ。アンヌ=マリーにヴァイオリンを弾く機会を与えたのは彼女なんだよ、それを思い出すとまたじーんとくる。

ただ演奏中にインサートされるいくつかのカットは、個人的にはなくてもよかったかなと思う。でもこれは、彼らにはその後ハッピーエンドが待っている、待っているはずだ!というスタッフ側の強い思いの表れなんだろうな。

「すべては演奏のために」作られた素敵な音楽映画。ラスト20分の圧倒的な熱量はほんとにすごかったです。


オーケストラ! [Blu-ray]

オーケストラ! [Blu-ray]