人生はハッピーソング――「ザ・マペッツ」

少し前から、映画や本の感想は日々の雑記に組み込むことにしたので、観た日に感想が書けなかったものは基本的に流してしまう方針だったのだけど、これは涙腺が涸れるほど泣かされた映画でもあるので、少しまとめておく。最高に楽しくて最高に切ない、「ザ・マペッツ」。(以下ネタバレ気味と思われます)

ウォルターがマペットショーを初めて見て感動を覚えるオープニングからして、マペット愛がほとばしっていて涙ぐんでしまう。私は本作を観るまでマペットをよく知らなかったし、そんなだからもちろん思い入れもなかったのだけれど、あのウォルターの画面に釘付けになる表情(マペットの表情があんなにイキイキと変化することにも単純に驚いてしまった)や興奮気味の声、何かに対する熱烈な愛情には身に覚えがあったので、泣いてしまったのだろう。たぶん誰にでも、ウォルターのように子どもの頃に出会って夢中になったものがあるはずで、この映画はそれを思い出させる。だから、歌あり踊りあり笑いありで子どもたちも十分楽しめる映画ではあるのだけど、「これから夢中になるものを見つける」彼らよりも、「すでに何かに夢中になったことがある」大人に、一層響くんじゃないかと思う。(そういう方向で宣伝すれば興収ももうちょい伸びてくるんじゃないかなーと思うのだけど。上映規模が一気に小さくなって悲しい)

そんなわけで、初っ端から「マペット愛を高らかに叫ぶマペット映画」であるところの本作は、どうしても自己言及的なネタが多くなりがちなのだけど、それでもメタメタの罠に陥ることはなくて、単なる懐古に終始しないフレッシュさを獲得している。これは昨年の「ステイ・フレンズ」にも共通することで、この2作は実はとても似ていると思う。多幸感溢れる歌とダンスも共通項の一つだし、「ザ・マペッツ」のラストは(場所こそハリウッドとNYで正反対ながら)「ステイ・フレンズ」のフラッシュモブを想起した。ちなみに、「ザ・マペッツ」で主演のジェイソン・シーゲルとテレビ局スタッフ役のラシダ・ジョーンズは「ステイ・フレンズ」の劇中劇でカップルを演じている。

ストーリーはシンプルな青年の成長譚として見られる。これまで一心同体で育ってきたウォルターというマペット(=子どもの心)との別離を経て、主人公ゲイリーは一人前の人間(=大人)へと成長する。ここで嬉しかったのは、ゲイリーが子どもの心を単に切り離すだけではなく、そのあるべき場所に送り出しているということ。つまりそれは、子ども時代そのものを大切にしまう作業であって、だからこそストレートに愛情を炸裂させる必要があったのだと思う。

役者陣に関しては、主演のジェイソン・シーゲルも恋人役のエイミー・アダムスも陽気な映画の雰囲気にぴったりでよかったのだけど、一人挙げるとするならクリス・クーパー一択である。前情報を何も入れずに観たので、実は彼が出演していることすら知らなくて、画面に出てきただけでも驚いたのに、ノリノリでラップしたり踊ったりするからますます驚いた。これまでひたすら強面な印象があったので、このギャップには正直萌えざるを得なかったし、ぜひとも皆さまにもクリス・クーパー萌えを経験していただきたいです。