シド・アンド・ナンシー

先日シネマヴェーラで組まれた特集「アメリカン・インディペンデント魂!」の上映作品の一つで是非観たいなーと思っていたのだけど、時間が合わず見逃してしまったのでDVDを借りて観た。一応ゲイリー・オールドマンつながりで「裏切りのサーカス」前哨戦も兼ねる。

ロンドンパンクの代表的バンド、Sex Pistolsのベーシスト、シド・ヴィシャスとその恋人ナンシー・スパンゲンの破天荒な愛の物語ということで、二人の短く過激な生涯のようにしっちゃかめっちゃかで刺激的な映画を想像していたのだけど、予想外にウェルメイドでさらりとした仕上がりだった。シドとナンシーの関係を軸にしつつ、当時のパンクカルチャーやバンド周辺の物語を適度に掬い上げていく(有名なスティーヴ・ジョーンズがテレビの生放送で4文字言葉を発した事件やジョニー・ロットンが右翼から襲撃を受ける事件などがさりげなく取り上げられる)語りのなめらかさには心地よさを感じる。

と同時に、なんだかきれいにまとまりすぎているような気もして、もう一つパンチがほしいなあと思っていたら、あのやたら幻想的なラスト。ああそうか、このラストのためにこの映画は作られたのかと思ったら、すべてに納得がいった。現実味がなく、ただただ冷たく美しいNYの摩天楼を背景に佇むシドは、完全にあちらの世界にいってしまったように見える。それは彼にとって幸せなことだったのか否か。あそこまでやられると、夢見がちなのか冷徹なのかわからない。ちなみに、その印象的なNYの摩天楼を撮影したのは、当ブログおなじみのロジャー・ディーキンス。またか。この撮影いいなーと思ったときのディーキンス仕事率の高さは相当なものだな。

主演のゲイリー・オールドマンはまさに怪演。見た目は決してシドに似ていないが、なりきりぶりが凄まじい。ゲイリーは撮影当時すでに30才ほどだったのだけど、あの大きな明るい笑顔をイノセンスの表象とすることで、20才そこそこのシドの若さを表現している。余談だけど、ゲイリーの笑顔のかわいさは異常だよね。50を過ぎた今もありえないほどかわいい。