アーティスト

今年のアカデミー作品賞、監督賞、主演男優賞などを獲得し、注目度の高い作品ではありましたが……

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悪くないけれど、いろいろと小技をきかせているわりに薄味な映画だなあ、という印象。サイレントからトーキーへと移り変わる頃のハリウッドを舞台にしているということで、オールドハリウッドへの憧れや懐古、愛が中心になるかと思っていたのだけど、ロマンチック度は案外低め。あくまで実験的かつモダンな形で提供されるメタサイレント映画だった。

今あえてサイレント((録音された)音声なし)をやるということは、逆説的に作り手の「音」に対する強い意識を示している。だから、これは音の映画だと言ってもいいと思う。主人公ジョージが見た悪夢、文字で表される"BANG!"、そしてラストシーン――この映画は音というものをどう表現するかについて、様々な試みをしている。その点はすごくおもしろくて、特にジョージの悪夢における音の恐怖演出は、音というものがもたらす心理的効果を最大限に感じる秀逸なシーンだった(周囲に溢れている何気ない音って意識しはじめるとすごく怖い)。ただ、そうした音に関する実験は断片的な要素であって、それらが物語と有機的に絡み合い血肉となって動き出すまでには至っていなかったように感じる。

残念だったのは、ジョージとぺピーに旧い時代と新しい時代を重ねて対比させるというのが、あまりうまくいっていないように思えたこと。二人はそれぞれサイレント映画の時代とトーキー映画の時代を担う存在であるわけだけど、そんな彼らがどういう気持ちで映画に向き合っているのかはほとんど語られない。「彼らにとって(サイレント)映画とは何なのか」、それが見えてこないので、映画界に激変が起きた時代を生きる人々の姿も浮かび上がってこない。サイレントからトーキーへ、その移行が何をもたらしたのか。その中でサイレント時代に取り残された人間は何を思うのか。そういった点が語られないのは本当にもったいない。いつまでもウジウジしているジョージはせめて一度くらいサイレント俳優、ひいては「アーティスト」たる誇りを見せてほしかったし、「そういうつもりじゃないの」と言ったぺピーの本心は結局何だったのだろうか。