16ブロック

久々に映画感想書きました。といっても昨年観賞分なんだけど。何作品まとめて書きたいけどなかなかできませぬね。書けたものから少しずつアップです。

昨年の映画ベスト5位に選んだ「メカニック」と脚本家が同じ(リチャード・ウェンク)ということで観てみたのだけれど、予想外にグッときてしまいました。

落ちぶれた刑事と彼に裁判所まで護送されることになった囚人との「変則的なバディムービー」なのだが(これも「メカニック」との共通点)、この主人公二人の人物の掘り下げと絆の構築の描写がまあ手際よく且つ丁寧で素晴らしい。作中で描かれるのはほぼ裁判所への護送の間の出来事のみで、やたらと説明的な台詞だったり回想シーンだったりは一切なく、護送中の二人のやりとり・行動から彼らの人物像と互いに心を開きあっていく過程が過不足なく描かれる。そもそもが「人生を諦めてしまった男」と「人生を諦められない男」の出会い、それは運命だったんだよというのがロマンチックで巧いし、二人の間に友情が芽生えるのにまったく不自然さや唐突さがない。それに加えて、悪徳刑事たちからの逃走劇だったり、銃撃戦を中心とするアクションだったり、気の利いた会話(バス停の話は自分も誰かに訊いてみたくなる!)だったりがテンポよく挟まれ、一つの物語が滞りなく動いていく。いや、これあっさりやってるけど、相当巧みな脚本や編集だよなあ。

そして主人公の刑事と囚人を演じたブルース・ウィリスモス・デフの二人がなんともキュートで案外相性もいい。ブルース・ウィリスは冒頭から明らかにアル中のおっさんで「うわあブルース大丈夫かあ?」と思わせられるのだが、あの拳銃を抜いた瞬間に切れ者の刑事らしくキリリと一変する表情が素晴らしい。このギャップを生み出せる人はなかなかいないだろう。さっきまでくたびれたおっさんにしか見えなかった男が突然「彼についていけば大丈夫」と思えるような信頼感を纏うのだ。一方、モス・デフ演じる囚人は若い頃から様々な犯罪を繰り返し「どうしようもないクズ」だと思われているのだが、そんな彼がそれでも人生をやり直す希望を捨てず、あのクリッとした目をキョロキョロさせながら「ケーキ屋を開く夢」を語る姿がもうとっても愛おしくて。彼の出演作は他に「僕らのミライへ逆回転」とか「銀河ヒッチハイク・ガイド」なんかを観たが、どの作品でも彼はかわいい。不安を紛らすためか元々そういう人間なのか、ひたすら喋り倒しているその喋り方も何か独特のリズムがあって惹き付けられてしまう。

「メカニック」のほうはけっこうメチャクチャなところもあったんだけれど(あれはそういう映画だし、意図的にやってると思うけども)、この作品はお話がすごくしっかりしている。しかもこれでランタイムはほぼ100分、午前8時半前から始まり午前10時にタイムリミットが来る(つまり約100分間の)裁判所までの護送をおおよそ時間の進む通りに大幅な省略なく描いているってのもいい。必要なことはちゃんと、その100分の中にすべて揃っている。派手さはないけれど非常によくできた素敵なバディムービーなので未見の方はぜひぜひ。