ハンナ

監督ジョー・ライト、主演シアーシャ・ローナンの「つぐない」コンビで送る、外界から隔絶されて育った殺し屋少女ハンナが世界を知る話。ジョー・ライト作品は初観賞だけど、たぶんこれまでの作品(「つぐない」「プライドと偏見」「路上のソリスト」)とは雰囲気が違うのでは。

これはとにかく感想が書きづらい。なんというか、不思議な、ちょっと変わった映画で、ツッコミたくなるところも多く、でもグッとくるところもいろいろあり、なぜこれはこうなのという「?」なところもちらほら……そんで最大の謎としては結局、「どの方向に行きたかったのかよくわからない」ということなんだけど、これは本当に、観賞から2週間以上経った今でもよくわからないので、言っても仕方がない。ので、今回は特に印象深かった/気になったところを3つだけ書く。

(ちなみに、自分的にはどうだったかというと、「変な映画だったけど、この不思議さはけっこう好きだなー、いいところもいろいろあったし、思ってたより楽しかったなー」というかんじなんだけど、そもそもの観賞理由が「ジェイソン・フレミングが瞬殺されるところを見る」だった人間が、「予想より気に入った」って言っても……って話ですね。しかもフレミングさん、瞬殺されませんでした。絶対ハンナに殺される追っ手役だと思ったんだけどなあ。)

  • まず、ケミカル・ブラザーズの音楽あっての映像表現が多くて驚いた。彼らがサントラを手がけたことは観賞前から知っていたけど、それにしてもここまでケムズを押すのか、という。簡単に言うと、PV的な演出が多くて、ハンナの顔を中心にカメラがグルグル回ったりする……さすがにこれはどうなんだと思ったけれど、ダンスビートに乗せてハンナが走る姿はかっこよかった。でも、こういう演出をする狙いがいまいちわからない。映像表現として斬新なわけではないし、むしろ古いくらいで、それなのになぜ敢えてこれをやるのかという……映画の世界観に合わせてなのか(これは違うと思うけど)、単純に監督がケムズファンで、彼らのPVのような映画を作りたかったのか。この映画の不思議さって、つまりこういうことで、何を意図してそうなったのかわからないところがいくつかある。長回しワンカットのエリック・バナのアクションとか、かっこいいシーンもあるんだけど、時たまこういう「なぜこれを」っていうシーンが入ってくる。
  • しかし、文化を知らず、父以外の他者との繋がりも知らない殺し屋少女が、世界に触れ、人に触れ……という描写は素晴らしかった。言葉の意味でしか知らなかった「音楽」を初めて聞いたときの表情、スイッチ一つで動く電化製品に驚くあたふたっぷり、年の近い女の子と友達になれた喜び……などなど、どれも瑞々しくて美しい。また、ハンナが追っ手から逃げる道中で出会う家族が魅力的でよかったね。こういう自由な空気の家族と行動を共にできたのは、ハンナにとって幸運。彼らのやりとりを見て幸せそうな表情のハンナがとてもかわいい。殺し屋になるために育てられてきた女の子が自分の人生と向き合う姿も、しっかり描かれている。この映画はアクションよりも、こういう少女の内面描写が肝の作品だと思うので、そこをさらに強く押し出したらよかったのではないだろうか。
  • 最後に、これはこの映画で一番惜しいなと思った点なんだけど、ハンナを追う敵のキャラが弱い。追いかけてくるのは、ケイト・ブランシェット演じるマリッサ(ハンナのターゲットで、ハンナの父と因縁あり)が差し向けた、なんだか怪しげな男とその手下たちなんだけど、この人たちが「生まれてからずっと殺し屋になるために育てられてきた少女」と対等に闘えるように見えない。リーダー格の男は、最初はけっこうヤバそうな香りがして、この人すごい経歴持ってるんだろうなと感じるんだけど、それ以降、ただのチンピラに見えてしまうんだよね。終盤出てくるグリムの家のおっさんより地味だし、普通にジャージ着てるし、武器はそこらへんにあった棒とかだし。この人たちにハンナが負けるわけないじゃんと闘う前から思ってしまう。しかもそのわりにハンナが手こずるという。ここの闘いがピリッとしないと、結局ハンナを育てた父も追っ手を差し向けたマリッサもどんくさく見えてしまうわけで、そうすると映画全体に響いてくると思う。主要登場人物のキャラをしっかり立てて、それぞれの対比をはっきりさせる、というのがもう少し徹底されていれば。

他にも言いたいことはあるけど、このへんで。最近観た映画の中では一番感想書きづらかった……実際まったく感想になってない……。