パンチドランク・ラブ

長尺な作品が多いポール・トーマス・アンダーソン監督作の中でも、これは95分と短く、さっぱりと観れそうだったので、PTA入門編にはちょうどいいかなと思い観てみた。(ほんとは「ブギーナイツ」が観たかったのだが、置いてなかったのでな)

恥ずかしながらこれが初PTAだったわけだが、出会いの一本としてはなかなかよい作品だったんじゃないでしょうか。視覚聴覚をグイグイ刺激する、約100分間のショートトリップのような映画。他の作品も観たくなったから、PTAとは幸福な出会いが果たせたといっていいね。

タイトルの「パンチドランク・ラブ」とは「強烈な一目惚れ」という意味だそうで、本作はその「強烈な一目惚れ」から始まったある男女の恋をコメディタッチで描いている。のだけれど、いわゆるラブコメディとは違う。描かれるのは、恋の物語というよりも、恋によって変わっていく男の心の動き。なので、ラブストーリーを求めると物足りなく感じられるかもしれないし、実際物語の面では弱い映画だろう。しかし、この作品が描くのは、あくまで「コンプレックスを抱えた主人公の内面の変化、葛藤、成長」であって、PTアンダーソンはそれを主人公の内側から一人称的に見せようとしている。そのためにあえて、起承転結や行動の筋道をはっきりさせた客観的な物語の描写を抑えているのだと思う。

アダム・サンドラー演じる主人公は、7人の過干渉な姉に囲まれて育ったためかよく情緒不安定に陥り、突然キレて窓ガラスを割ったりしてしまう。そんな彼が恋をして、愛する人のために変わろうとしていく姿が描かれるわけだが、その描き方にはおもしろみとあたたかみがあって、とてもハートフル。PTアンダーソンの主人公に対する真摯な眼差しが感じられる。

PTアンダーソンは、主人公の内面変化を描くために、かなり一人称に寄った演出をしていて、それはまるで主人公の頭の中に入っているかのように思わせるものだった。興奮状態(もともと情緒不安定なのと恋のせい)の主人公の脳内を再現するように、映像と音を駆使し、観る人間の感覚を拡張させる。まさに映画に観客を「浸す」というか。言語よりも感覚で、主人公の内面を描いているのだ。

主人公の心情に合わせるように時折青い光が瞬く映像もよかったが、それにも増してとにかく音楽が素晴らしかった。アフリカンミュージックのようなリズム、多幸感あるサウンド、ロマンティックなメロディ。それぞれの音が主人公の心の動きとリンクしていた。

※これもまたつづき書くかも